先日2期制作が発表されたアニメ「たまゆら」。
既にご覧になられた方も多いと思いますが、exciteの『エキレビ』のコーナーに、3回に分けて「たまゆら」2期に関する佐藤順一監督へのインタビュー記事が上がってました。
私もいろいろと感心しながらとても興味深く拝見しましたが、放映時期が来年以降になりそうなのは想定の範囲内ですので、むしろ慌てずじっくり良い物をまた作っていただきたいという思いで一杯です。
サトジュン監督の次回作に関しても少し触れられてますので、未読の方はぜひどうぞ。
◆新たな戦いが、また始まる……。「たまゆら」2期制作決定!〈佐藤順一監督インタビュー Part1〉
【エキレビ 2012年3月26日】
2010年10月のOVA発売時から、僕が推しに推しているアニメ「たまゆら」。2011年の10月からは、「たまゆら~hitotose~」としてテレビアニメ化。11月には、作品の舞台となった広島県竹原市で、「たまゆらの日」と称する大規模なイベントも開催され、全国から大勢の「たまゆら~」(たまゆらファン)が集結しました。自称「たまゆらいた~」(たまゆらファンなライター)である僕も、もちろん参加。エキレビでもレポートをアップしています。
そのレポートの中でも切なる願いとして書いた「たまゆら」の2期制作が、ついに正式決定! 3月25日に行われた上映イベントの会場で発表されました。そこで、気になる2期の内容について、佐藤順一監督に最速インタビューを敢行。ずっと聞きたかった、OVAや「hitotose」についてのお話も、たっぷりと伺ってきました。
――監督! 「たまゆら」の2期制作決定、おめでとうございます!! 今の率直なお気持ちを教えて下さい。
佐藤 新たな戦いが、また始まるなと……(笑)。
――ああ……、田舎町に暮らす普通の女子高生たちの日常や夢を、温かな視線から描いている作品なのに。制作現場は戦いなのですね(笑)。
佐藤 もちろん、とても嬉しいし、ありがたい話ですが(笑)。発表されるまでに、正式決定するかしないかという期間がけっこう長くて。その期間で、心の準備はしているんですね。なので、「おお、決まったのか!」というよりも、「あ、決まったんだ」みたいな感じです。
――「たまゆら」では、古い町並みが残る竹原の風景や行事などが、物語の中でそのまま描かれていて。リアリティとともに、不思議な懐かしさを感じられるのも、大きな魅力です。ただ、そのための取材も大変だと思うのですが。決定前から、2期のための準備は、すでに始められていたのですか?
佐藤 そうですね。取材してきたネタは、基本的には出し惜しみせず、使えるものは使うというスタンスなんですけど。それでも、使おうと思っていたのに使えなかったものはありますので。それに加えて、2期に向けての新たな取材もするのですが。まだ、じわりじわりというところですね。
――監督は、イベントも含めると、すでにかなりの回数、竹原へ行かれていると思いますが。最近でも、行く度に新たな発見はあるのですか?
佐藤 5、6回は行ってますが、長くても、3日間くらいしか滞在できないので。毎回、取材をする度に、なにかしら新しいネタは見つかります。
――本音を言えば、一週間くらいのんびり取材したいですか?
佐藤 そうですね。たぶん、のんびりはしないと思いますけど(笑)。竹原は観光地ではありますけど、普通に人が生活している街なので、一週間の生活サイクルというものはあると思うんですね。一週間くらい滞在して、竹原の人たちがどんなサイクルで生活しているのか、見てみたいという気持ちはあります。まあ、なかなか、そうもいかないんですけど(笑)。竹原の高校生が、実際にどういうサイクルで生活をしているのか。どんな所で、友達同士、語ったりしているのかという事も、意外とまだ分かってないので。そういうところも、取材できると良いですね。
――2期までに、そういう機会があると良いのですが……。その2期ですが、放送はいつ頃になるのでしょうか?
佐藤 ちょっと、まだかなり先で……2013年になりそうですね。
――そうなんですか。待ち遠しいですが、「たまゆら」2期よりも先に制作が発表された、OVA「わんおふ-one off-」もありますしね。現在の状況は、2期の制作が決まって、「さて、どんなお話にしようかな」と考えているくらいですか?
佐藤 そうですね。すでに制作委員会の人たちと、決まった時にはどういう形にしようかという議論は進めてきているので、ある程度の方針は決まっています。
――では、2期に関して、今の段階でたまゆら~の皆さんに伝えられる事はありますか?
佐藤 キャラクターが一新する事は無いですね。竹原で暮らしている高校生の女の子たちの日常が、そのまま延長していくという事は間違いないです。「hitotose」の1年間で彼女たちが生活してきた先に何があるか、という事にはなると思います。
――「たまゆら大学生編」になったりはしないという事ですね。
佐藤 いきなり大学生になったり、主人公が変わりました、とかはないです(笑)。
――良かった。たまゆら~も、主人公の沢渡楓を演じた竹達彩奈さんたちメインキャストの皆さんも、ひと安心ですね。って、誰もそんな心配はしてないと思いますが(笑)。
佐藤 でしょうね(笑)。1期12本をやってきた中で、「こんなのを見たい」とか「あれはどうなってるの?」とか、色々な意見も入っているので、そのあたりをうまく拾いつつ、物語に生かせたら良いなと思います。
――ネットなどに書かれる視聴者の感想なども、チェックされているのですか?
佐藤 はい。(視聴者が)どういうところを面白がってくれたかなどは、重要な情報なので。それを拾って、2期も満足度を上げていきたいですね。
――では、少し遡って、OVAのことから質問させて頂きたいのですが。OVAは全2巻で、4話合計1時間という長さの作品でした。作品設定などに関しては、すでにこの時から、テレビシリーズにも対応できるくらい、大きなものを考えられていたのですか?
佐藤 物語のベースになるものとしては、当然、テレビで走れるくらいの要素は用意していました。でも、OVAの尺の中で、「hitotose」でやったように、楓の友達の3人にまで話を広げていくと、どうしても(話が)ぼやけてしまうんですね。そこで、OVAでは、楓に完全に焦点を絞って、亡くなったお父さんとの物語で上手く着地ができればと考えました。その方が作品としての満足度的には高くなるかなと。その分、友達のかおる、のりえ、麻音に関する掘り下げは浅くなるのですが。まあ、少し女の子たちの描写にやり残し感もあった方が、そのあたりの話も見たいなという希望が出てくるかなという、ザックリした計算はありました。その時点では、テレビ版があるかどうかなんて、分からなかったんですけど。
――そのあたりを見たかったら、みんなでBlu-rayやDVDを買って、続きを作らせてよ、という計算ですね(笑)。
佐藤 まあ、「レッツバイ!」ということで(笑)。いつから、こんなに「レッツバイ、レッツバイ」と言いはじめたのか……。いつの間にか、「たまゆら」と言えば「レッツバイ!」って事になってるし。
――「たまゆらの日2011」のレポート記事でも書いておきました! あと、これもOVAからの初期設定についての質問なのですが。「たまゆら」は非常に心温まるストーリーと空気感の作品ですが、主人公の楓は、大好きなお父さんと死別しているという、非常に辛い過去を抱えています。こういった悲しい設定をキャラクターに与える時は、どのようなお気持ちなのでしょうか?
佐藤 自分が(娘のいる)お父さんで死ぬ立場だからか、可哀想というよりも、娘の思い出に残ってて欲しいなという感じですね(笑)。「たまゆら」に限らず、ドラマの中で誰かが死ぬような描写をする時って、死んだ人が主人公に語りかけたりとか、まだ成仏してない状態でみたいな描写もあるんですけど。今回はそうではなく。悲しいところを乗り越えて、そこから立ち直る瞬間を描きたいとは、最初から思っていました。ちょっと振り返ったり、思い出が蘇った時、悲しいというよりも、温かいものを思い出して涙が出る、といった物語が良いかなと思ったんです。
――温かな物語を描くという点では、「ARIA」シリーズなど監督の過去作品と重なる部分もあるかと思うのですが。「たまゆら」で新たにチャレンジされた事などはあるのでしょうか?
佐藤 「ARIA」からの流れで言うと、大きく変えてみたのは、主人公に明確なゴールが無いという所ですね。「ARIA」の主人公の(水無)灯里は、スタート時点で一人前のウンディーネ(観光案内人)になりたいと言ってるんですが、その後、ウンディーネになるための話が延々と続くわけじゃないんですね。その話は、(完結編の)3期の最後になって一気に持ち上がってくるんですが、ゴールが明確なので、それまでの間も(物語の)縦軸はしっかりあった。物語的には、その方がやりやすいんです。でも、我々の身近で考えると、そこまで明確に将来のゴールを設定している高校生って、意外と少ない気がして。
――確かに、そうですね。
佐藤 だったら、より身近に感じられる存在として、もう少しゴールが曖昧な女の子にしようかなと。ドラマとして描くのが難しくなるのは確かなんですけど、今回は舞台も身近で、行こうと思えば行ける場所(「ARIA」の舞台は未来の火星)。高校生たちの在りようにも存在感を出そうと思ったので、そこは実験というか、チャレンジではありました。
(丸本大輔)
(part2に続く)
〔※写真:「きんぎょ注意報!」「美少女戦士セーラームーン」「おジャ魔女どれみ」「ケロロ軍曹」など、数々の名作アニメーションを手がけてきた佐藤順一監督。「たまゆら」シリーズでは、2003年に放送された「カレイドスター」以来、久しぶりに原作も兼任しています。2012年中に発売されるオリジナルOVA「わんおふ-one off-」でも、監督を務めることが決定!〕
◆すぐに泣く子はウザイじゃないですか〈佐藤順一監督インタビュー Part2〉
【エキレビ 2012年3月28日】
テレビアニメ「たまゆら~hitotose~」の2期制作決定を記念した、佐藤順一監督インタビューのpart2。引き続き、OVA「たまゆら」と、第1期「たまゆら~hitotose~」制作時のエピソードなどを伺っていきます。
(part1はこちら)
――「たまゆら」の舞台は広島県の竹原市ですが、やはり監督が実際に現地を訪れて感じたものは、作品のテーマなどにも大きく関わっているのでしょうか?
佐藤 もちろん、そうですね。候補としていくつかの街を取材したのですが、田舎町の場合はどこでも、人の流出やちょっとした過疎化のような問題はあるんですね。中には、かなり後ろ向きな場所もありました。「こんな所、いつまでもいるような場所じゃないよ」とか言うお年寄りもいたりして(笑)。そういう街を舞台にすると、実際にファンの方が行った時、がっかりするじゃないですか?
――そんな聖地巡礼は嫌です(笑)。
佐藤 でも、竹原は初めて訪れた時に話を聞いた人の中にも、街が好きなんだなと感じられる人がたくさんいたんですね。観光地でもあるので、フレンドリーさも持っていて。その空気感も、竹原を舞台にしようと思ったきっかけというか、重要な要素でした。
――この街の人たちとなら、一緒に作品を盛り上げていけるなという感覚があった?
佐藤 でも、ここまで盛り上げてもらえるとは思ってなかったです(笑)。そういう意味では、竹原の皆さんが、この作品をきっかけに竹原を訪れる人が増えたら良いなと考えて、前向きに取り組んで下さって。そのあたりのコラボレーションも手探りではあったのですが、いろいろと上手くいきましたね。
――では、テレビシリーズ第1期の「たまゆら~hitotose~」について伺いたいのですが。主人公の沢渡楓(CV:竹達彩奈)だけでなく、周りのキャラクターにもスポットを当てるという事以外に、何か狙っていたことはありますか?
佐藤 そうですね……。何か1つ大きなポイントということではないのですが。(キャラクターたちが)ちゃんと、そこで生活している感を出せたら思っていました。それができたのは良かったですね。例えば、「hitotose」の終わりは、年末に年を越すところで終わろうと思っていて。実際に年末年始の竹原に行って、(作中に登場する)照蓮寺の山門で鐘を突いたり、一通り体験させてもらいました。大晦日の夜に、街の人がぞろぞろと集まってくる風景なども見て、そこで得たものを物語に生かした感じです。そうする事で、リアリティが出てくるのかなと考えたのですが、そのあたりは上手くいったのではないでしょうか。
――はい、街の生活感を感じられたし、とても最終回らしい光景だったと思います。この機会に、1話から12話まで、すべてのエピソードについてお話を伺いたいところなのですが、時間もページ数も限られているので……。監督の中で、特に印象深いエピソードは何話になりますか?
佐藤 やはり7話ですね。全12話のセンターに置いている事からも、重要度がお分かり頂けると思います。
――7話「竹灯りの約束、なので」は、実際に竹原で毎年行われている「憧憬の路」というお祭りの日を描いたお話ですね。楓は、お父さんとの思い出のお祭りでもある憧憬の路をすごく楽しみにしているのに、当日、雨が降り出してしまって……という。
佐藤 憧憬の路も絶対に使おうと思っていたので、実際に見に行ったのですが、広島に着くと雨が降っていて。その後、雨が上がってから、飾られた竹筒の中に灯りが点いていき、濡れた石畳を照らす光景が本当に綺麗で。これはもう使うしかないだろうと。物語的にもうまく繋がりましたし、良いビジュアルも作れたので、相当に印象強いです。
――光景を見た時に、物語との絡め方も思いついたのですか?
佐藤 そうですね。憧憬の路の風景を見ながら浮かんだものが、そのまま作品に出てると思います。
――僕も、7話を見て憧憬の路に行ってみたくなりました。今度は、キャラクターについて聞かせてください。12話を描いていく中で、当初のイメージから変わったり、想像以上に膨らんだキャラクターはいますか?
佐藤 比較的、想定した範囲内に収まっているんですけど、(桜田)麻音に関しては、思っていたよりもちょっと深まったなと思います。
――確かに、麻音が中心のエピソード、いわゆる「麻音回」は多いですよね。
佐藤 メインキャラクターの中で、一人だけ竹原から離れた場所(瀬戸内海の大崎下島)から来ているという特殊な事情もあるんですが。あと、口下手で、代わりに口笛で気持ちを伝えるという特性も、意外と広がっていきましたね(笑)。1つには、4話、6話、11話の麻音の話を、全部、助監督の名取(孝浩)君がコンテにしてくれているので、そこの思い入れもあると思います。11話って、最初は麻音の話というよりは、(最終回に向かって)4人みんなで何かをやる話の前哨という感じで思っていたんですけど。実際にシナリオを作って絵になると、かなり麻音の話になっていて。それはそれで良かったと思うのですが。そういう意味では、麻音周りが膨らんでいきましたね。
――内気な麻音が頑張っていると、より頑張っている感が強くなるし、良かったと思います。
佐藤 OVAで楓をしっかり描いているからという理由もあって、こういう形になりましたが。もしOVAが無かったら、あれ(11話のメイン)は主人公の楓に与えられるべき設定ですよね。
――確かに。麻音を演じた儀武ゆう子さんが、ニヤニヤと喜んでいる姿が目に浮かびます(笑)。
佐藤 そうですね。「ギブなのに泣かされて悔しい」という反応も聞こえてきました(笑)。
――「hitotose」では、たくさんの新キャラクターも登場しています。中でも、第1話から登場した楓の幼なじみの三次ちひろ(CV:寿美菜子)は、重要かつインパクトも強いキャラクターだったと思います。
佐藤 楓がお父さんと死別したという事情を、OVAの時とは別の切り口で見せるためにも、新しいキャラクターを絡めたお話は必要でした。同じ形で描くと、OVAを見た人は、2回同じ内容を見せられる事になってしまいますし。
――楓が中学生時代までを過ごした神奈川の汐入で暮らしているちひろは、竹原で暮らしている塙かおる(CV:阿澄佳奈)と、対をなすキャラクターなのかなと感じていまして。2人とも、楓の事をすごく大切に思っていて。父親との思い出の地である竹原で暮らし始めるという楓の決心の意味を、本当に理解している親友ですよね。でも、性格はまったく対称的です。そこには、どのような狙いがあったのでしょうか?
佐藤 ちひろは、ドラマCD(「たまゆらじおどらまぷらす」)で名前だけは出ていたのですが、そのときから、どんなキャラクターにしようかは、ぼんやりとは考えていました。お父さんが亡くなった時、楓は悲しんで何もできなくなるかもしれない。そこから楓が立ち直っていくために、隣にいるのはどういう子が良いのかと考えたら、かおるみたいにガンガン引っ張っていくタイプではないだろうと思って。見ていて放っておけなくなるような子の方が、逆に楓が自立して立ち直っていくのかなと。それで、若干漫画チックな設定ですけど、もらい泣き度がハンパ無いという子にしました。
――もらい泣きどころか、楓より先に泣きますよね(笑)。
佐藤 そうですね。「お前、励ませてないよ」くらいの方が良いのかなと(笑)。
――ちひろに関しては、キャラクターデザインの前にキャスティングが決まっていたそうですが。性格などの設定とキャスティングは、どちらが先だったのでしょうか?
佐藤 わりと早い段階。性格などを考えるのと同時に、寿さんにやってもらったら面白いかなとは考えていました。
――寿さんは、監督の前作「うみものがたり 〜あなたがいてくれたコト〜」にも、メインヒロインの一人、宮守夏音役として出演していましたね。僕は、「うみものがたり」や番組の公式ラジオ「うみものらじお」も大好きだったのですが。OVAの「たまゆら」を見ながら、「うみものらじおでパーソナリティだった阿澄さんや、準レギュラーだった儀武さんは出てるのに。阿澄さんの相方だった寿さんだけ、仲間外れだ……」とか思っていました(笑)。
佐藤 「hitotose」が決まる前に「うみものがたり」のメンバーで食事会をした時、「私だけ呼ばれてない……」という空気は、(寿さんから)フワッと漂ってましたね(笑)。
――口には出さないけれども?
佐藤 ええ、薄らとオーラは感じました(笑)。寿さんと初めて仕事をしたのは、「うみものがたり」だったのですが。夏音は相当に難易度の高いキャラだったのに、それをしっかりこなしてくれたんです。今回のちひろも、すぐに泣いてしまうという漫画っぽい属性があるので、ある程度の現実感を持たせながら演じるのは、ハードルが高い事なんですよ。
――地に足のついたキャラクターとして見せるのは、難しいということですね。
佐藤 そうですね。それに、言い方は悪いですけど(すぐに泣く子は)ウザイじゃないですか。それでも(視聴者に)嫌悪感を持たれず、そのお芝居をやってもらう必要があった。それも、寿さんならストレートにできそうだなと。まだ若いのに本当にしっかりしていて、こっちが用意したハードルを、きちんと考えて越えていく姿勢もある子なので。信頼もしていたし、このキャラを任せるくらいの感じでした。
(丸本大輔)
(Part3に続く)
〔※上記画像:監督が、特に印象深い回に挙げた「たまゆら~hitotose~」第7話。降り続く雨を見ながら、楓に憧憬の路を見せてあげたいと、くやしがるかおるの姿にじーんと来ます。かおたん、マジ良い子! そして、雨の止むのを待ち疲れて居眠りしてしまった楓が、夢の中で出会った光景を見て、もう号泣です。〕
◆緒方恵美さんが声をかけると、動員力がハンパ無い〈佐藤順一監督インタビュー Part.3〉
【エキレビ 2012年3月29日】
テレビアニメ「たまゆら~hitotose~」の2期制作決定を記念した、佐藤順一監督インタビューの最終回は、メインキャラクターのキャスティングに関するエピソードなどを紹介。さらに、先日、制作が発表された佐藤監督の最新作「わんおふ-one off-」についても、お話を伺いました!
(part1、part2はこちら)
――メインキャラクター4人のキャスティングについても教えて下さい。演じている声優さんの中で、塙かおる役の阿澄佳奈さんと、桜田麻音役の儀武ゆう子さんは、監督の前作「うみものがたり 〜あなたがいてくれたコト〜」にも出演されていて、個性もよくご存じだったと思うのですが。沢渡楓役の竹達彩奈さんと、岡崎のりえ役の井口裕香さんは、「たまゆら」が初めての起用だと思います。まず、主人公の楓のキャスティングには、どのようなポイントがあったのでしょうか?
佐藤 実は「たまゆら」では、楓しかオーディションをやってないんですね。その中で竹達さんは、キャラクターへのアプローチの仕方や、台本を持って読む感じなどを含めて、楓っぽいなと。僕は、オーディションでは、声はもちろんですが、それ以上に(役者の)居住まいというか、在りようを見ていて。そのキャラクターに近い空気感があるかどうかが重要だと思っているんです。
――竹達さんは、楓みたいにわたわたしていたのですか?
佐藤 わたわたしてるところも含めて、いろいろとテンパリやすそうだなと思いましたね(笑)。
――いつも元気なのりえ役の井口さんについてはどうですか?
佐藤 井口さんはオーディションも受けていたのですが、ラジオでの印象も強かったんです。(初めての役者を)キャスティングをする時は、インターネットラジオなども聞く事にしていて。ラジオってわりとその人の素が出るので、参考になるんですよ。井口さんのラジオ(「井口裕香の超ラジ! Girls」)を聴いて、「へえ、ウザかわいい」と言われているのか、と(笑)。
――確かに、のりえもウザかわいいキャラですね。そういえば、僕は「ウザかわいい」という言葉を、井口さんのラジオで知りました(笑)。
佐藤 私もそうですよ。後々、実際に本人と話してみて、「ああ、ウザかわいいとは、こういうことか~」と思いました(笑)。あと、「たまゆら」に関しては、イベントやラジオもたくさんやりたいと思っていたので、キャスト同士の仲が良いことも、ポイントが高いなと。井口さんは、阿澄さんとも仲が良いので、そういう点も少し考えました。
――では、その阿澄さんを、楓の幼なじみのかおる役に起用した理由は?
佐藤 阿澄さんは、最初に「ARIA」で1回(3期の第4話)、出てもらっているんですね。「うみものがたり」で主役のマリン役をお願いしたのも、その時の印象が強かったんです。
――「ARIA」では、ゲストキャラとして、一人前のウンディーネ(観光案内人)を目指す女の子を演じていましたね。
佐藤 「ARIA」の主人公をやっていた葉月(絵理乃)さんのラジオ(「佳奈・絵理乃・教子のビューティーブラックバス」)を聞いていて、「声優を目指して頑張ってる子がいたなあ」という印象が残っていて。それが阿澄さんだったんですね。だから、ウンディーネを目指して頑張ってる子がピッタリかなと思って、お願いしました。その後、「うみものがたり」をやりながら本人を見ていくと、周りの人をとても大切にする人だなというのも分かって。そういう意味で、遠くにいても楓のことを気にしたり、心配したりしていたかおるに良いのかなと。しかも、かおるは4人の中で1番、尖ったり弾けたりする部分がないキャラ。そういうところもきちんとやってもらえる人として、阿澄さんかなと思いました。
――では、無口な麻音に、いつも賑やかな儀武さんを起用したのには、どのような理由が?
佐藤 最初、麻音を儀武さんにする予定はまったく無かったんですよ。まず、OVAが始まる前に、儀武さんが竹原の取材に勝手についてくるという事件がありまして(笑)。
――公式サイトにアップされていた動画「たけはらんど」でも、竹原まで監督を追いかけて“「たまゆら」に出して”と迫る様子がレポートされていました。あれは、ガチだったのですね。儀武さん、すごい(笑)。
佐藤 儀武さんはイベントの時にも(司会として)力を発揮するので、何かの役で入ってもらおうかとは思っていたんです。まあ、犬や猫の役で(笑)。でも、儀武さんを起用するとして、もし麻音だったらどうだろうと思った時、意外としっくり来たんですね。
――え!? どこがですか??
佐藤 麻音は、最初の時点では今ほどキャラクターが固まっていなくて。口笛を吹く、無口な女の子というだけだったんです。でも、作品を作っていくうちに、無口だけど、心の中にはやりたいことが山のようにある子になっていきました。それは、(CVを)儀武さんにした時点で、フワッと出てきた事。キャラクターに個性をつけていく時、演じる人の在りようとか個性はけっこう重要で。それによってキャラが膨らむという事がよくあるんです。無口な麻音に、儀武さんという異種異質な存在を入れる事によって、キャラクターが膨らむかもという予感があったんですよね。実際、膨らみ過ぎくらいに膨らみました(笑)。
――確かに、濃いキャラになってると思います。メインキャスト以外も非常に豪華ですが、OVAで僕が1番意外だったのが、竹原を訪れる旅行客の一人・飛田志麻子役の斉藤千和さん。「脇役なのに贅沢なキャスティングだな」と思いました。そうしたら、「hitotose」の第9話では志麻子の失恋話がメインに描かれていて。OVAの時から、この展開を考えた上で、キャスティングされていたのですか?
佐藤 そうですね。千和さんのキャラに関しては、テレビがあったら、ああいう使い方をしようとは思っていました。
――そうなると、「hitotose」の4話に登場した酒屋のお兄さん(役名は酒屋)を、人気声優の鈴村健一さんが演じているのも……。
佐藤 ああ、確かに。このキャスティングは何だってなりますよね(笑)。
――これは、2期の展開に期待なのかな、と。
佐藤 そういう期待感を感じてもらえるのも、重要なポイントかなと思います。
――期待しています。最初の話の繰り返しになりますが。今は、そうやってすでに撒いてある種に新たな構想を加えつつ、2期の準備を固めているわけですね。
佐藤 そうですね。あとは、キャストと実際にアフレコをしたり、ご飯を食べたりすることで見えてくるものって、意外とドラマの中にも使えることがあるんです。「hitotose」をやってきた中で、見えてきたものも色々とありますので、それも2期に生かしていきたいなとは考えています。
――キャスト陣のブログや出演しているラジオなどで、よく「たまゆら」メンバーの飲み会の話が報告されていますね(笑)。先日も、楓のお母さんを演じている緒方恵美さんのブログに、たまゆら飲み会の事が書かれていました。
佐藤 緒方さんが飲みに行くぞというと、メンバーの集まり方が凄いんですよ。僕らがアフレコ後に「ご飯行こうか」とか言っても、三々五々帰っちゃう人も多い中、緒方さんが声をかけると、動員力がハンパ無い(笑)。
――さすがですね(笑)。では、そんな「たまゆら」チームの飲み会報告も楽しみにしながら、2期の続報を待つ事にしまして……。2012年中に、佐藤監督の新作OVA「わんおふ-one off-」が発売されるそうですね。これは、どういった作品なのですか?
佐藤 この作品も女の子の日常を追いかける話なんですけど。「たまゆら」の場合は、何かになりたいと思えば、ある程度は道が開けているというか。(夢はぼんやりしているけど)何かの障害があるという話ではない。一方、「わんおふ-one off-」では、舞台を山奥に設定していて。実際にやりたい事はあっても、すごく田舎に暮らしているせいで、何となく自分にはできないだろうなと思っている女の子たちの話です。例えば、漫画家さんでも、声優さんでも何でも良いんですけど。憧れてはいるけれど、自分には根性が無いとか、お父さんが許してくれないとか、家が田舎だからとか、そういうハードルで夢を諦める事はよくあるじゃないですか。
――はい、そうですね。
佐藤 なので、そういったハードルはあるけれど、それは絶対に越えられないものではないんだよ、という作品になれば良いなと思っています。
――バイク、自動車メーカーの「Honda」が特別協賛として関わっている事も、この作品のトピックスの1つですね。
佐藤 「Honda」さんが特別協賛の作品なので、バイクに乗っている高校生の女の子を描こうという事になった時、どんな話ができるかなと考えました。バイクって、自分の足ではいけない場所に行ける乗り物。(活動の)幅を広げて、できない事を可能にしてくれるツールだと思うんですね。そして、そのバイクは、内燃機関を発明した人がいて、自動二輪を作った人がいて、という風に、いろんな人たちが自分の前の道を開けてくれた事によって存在するわけです。そういったところで、バイクともうまく連動した物語として描けていけるのではと思っています。
――公式サイトで公開されているPVの映像も非常に綺麗ですし、完成を楽しみにしています。では最後に、エキレビ読者の皆さんにメッセージをお願いできますか。
佐藤 現在、アニメーションの業界自体が、いろいろとチャレンジをしなきゃいけない中で、「たまゆら」も「わんおふ-one off-」もそれぞれにチャレンジをしている作品です。たくさんのアニメがある中、ちょっとでも気になれば、ぜひとも見て頂いて。気に入って頂けたなら、応援をして頂けると、非常にありがたいなと思っています。
(丸本大輔)
〔※写真:イベントや、番組の公式ラジオ「たまゆらじお」に出演する機会も多い佐藤順一監督。そういった場でのキャスト陣とのコミュニケーションも、作品作りに生かされている。「沖縄でイベントをした時、プロデューサーと一緒に儀武さんを実家まで送って行ったのですが。その時、お父さんに“これ、ゆう子が描いた”と見せられた柱の落書きを、「hitotose」の4話でそのまま使ってます(笑)。麻音なら描きそうだと思ったんですよね」(佐藤監督)〕