実は今回の定期は京都芸術センター主催の
“芸術ことはじめ Vol.4 クラシック音楽「交響曲を愉しむ」”
という短期のセミナーと連動していて、1回目に大友さんと仙崎さん(京響首席ファゴット)による講義、2回目にソプラノ歌手で京都市立芸大助教授でもある菅英三子さんの(ちょっとしたレッスンまがいのことも体験できた楽しい)講義、そして3回目が昨日のリハーサルの見学、最後に定期を聴く、という流れです。
これでチケット代含めて¥4,000・・・安いでしょ?
こういったところはさすが京都市ですね。
というわけで、まずは前日のリハーサルの見学から。
場所は明日の演奏会場と同じ、北山の京都コンサートホールの大ホール。
「休憩の合間を見計らってホールに入ります」
と事前に聞いていたのですが、私が行ったときは団員さんがパラパラと戻りはじめていた時でした。
当然ながら皆さん普段着でしたので、なんか本番の時とはちょっと違う、新鮮な感じがしました。
オケの人が大方出揃ってから、白井光子さんが登場。最後に指揮の大友さん。
私たちが見るあいだ(1時間)の練習箇所は『大地の歌』の終楽章でした。
前日ということもあってなのか、止めても大友さんからの説明は短めで、同じところを何度も繰り返す、ということもあまりありませんでした(あっても2・3度)。
ただ、歌手との音量のバランスは結構気にかけているようで、私は1階席の後ろの方にいたせいで、大友さんの指示の声がちょっと聞き取りにくかったのですが、断片で聞こえてくる言葉とその後のオケの演奏から想像すると、そんな様子に思えました。
白井さんの声、通りはするのですが、あまり大きな音量は出ないようでしたので。
最後の“ewig”とオケの音の響きが完全に消えた後、楽員から自然と白井さんへの拍手が起こったのが、とても印象的でした。翌日はきっといい演奏会になるような予感。
1時間近く経ってキリのいいところまで終わったので、
「次の休憩までだとかなり時間が遅くなるので、ここで退出します」
との案内で、見学者はここでホールから退出。
京都市交響楽団 第482回定期演奏会
2005年11月18日(金)19時開演@京都コンサートホール
◆F.シューベルト:交響曲第8(7)番ロ短調 D.759“未完成”
(休憩)
◆G.マーラー:交響曲『大地の歌』
指揮:大友直人
メゾ・ソプラノ:白井光子
テノール:クリストフ・プレガルディエン
先日のお話の際、大友さんは『未完成』について、
「ウィーン・フィルでも油断するとボロを出しやすい、非常に難しい曲」
というようなことをおっしゃっていました。
どこがどうとあまり詳しくはおっしゃってなかったのですが、指揮・演奏する方から見ると、所謂一般に広く知られた曲だからということでは片付かない、スコア上の困難さが沢山あるのかもしれません。
で、今日の演奏だったわけですが、メロディーとか自然な感じで流れていきましたが、その実、最初から最後までなにか一点にエネルギーを凝縮させ続けるような、内省的で一つの音も揺るがすことのない、聴き手も美しいメロディーをただ聴き流すのではなく、つい襟を正さないといけなくなるような、素晴しい演奏だったと思います。
最後の一音が完全に響き終わって指揮棒を下ろす時、ニコッと笑って胸のあたりでサムアップ(客席からは見えませんが)した大友さんの姿が、全てを物語ってると思いました。
少々上手くいったくらいで普段あんなことしませんし、彼自身会心の演奏だったのでしょう。
大友さんには失礼なのですが、私はあまり『未完成』に期待してなかったので、演奏後はとても得した気分でした(笑)。
後半はいよいよ『大地の歌』。
ステージに出てきた白井さんは、海(浅瀬ではなくやや沖合の)の色のような濃い目の水色のドレス。
私はそれを見た時に沖縄のニライカナイのことがパッと思い浮かびました。
ニライカナイ(沖縄でも地域によって若干言い方が異なりますが)は遥か遠い海の彼方にあって神が住み生命の源が宿るとされるところで、古代史や民俗学でいう“常世”と同じ意味合いを持つものですが、人の生死の時には魂がニライカナイから出入りするのですから、感覚的には“現世”からそう遠くないところにあるという感じですね。
極端な言い方をしてしまえば、
「アッチ行っても、またそのうちコッチの世界に来るでしょ」
みたいな感覚。
そういうのが頭に浮かびましたので、ひょっとしたらこの曲の、特に第6楽章後半の詩に絡めての解釈と関係あるのかなぁ、と思った次第です(あとでサインをもらった時にさりげなく質問してみたのですが、私の単なる思い過ごしのようでした)。
演奏はプレガルディエンが出だしからチョッとコケたりして音程が安定せず、わざとというかそういう解釈なのかとも思ったのですが、単純に不調だったようで、来日して体の調子が悪くなったのか、イマイチの出来でもったいなかったです。
それに対して白井さんはさすがというか、出てきたときの貫禄からして違ってたし(笑)。
音量がやや小さめで時折オケの音に埋没しがちなこともあったのですが、とても澄んだ美しい声で、詩の一字一句を大切にして歌う印象で、最後の
“ewig…ewig…”
はホントにこの世から消えてしまいそうになるくらいでした。
2人の歌手を支えるオケも素晴しかったです。
大友さんのコントロールも演出過剰にならず自然な感じで見事でしたし、それぞれのソロも曲想に見合った音色と演奏で雰囲気を大切にしていて、とても良かったです。
今回は本番の演奏が素晴しかっただけではなく解説とリハーサル見学付で聴けたこともあって、滅多にないお買い得気分でした。
全部込みで4,000円でしたもんねぇ。
あれでテノールが・・・(以下略)。