京都市交響楽団 第518回定期演奏会
2008年11月21日(金)19時開演@京都コンサートホール
◆岡坂慶紀 哀歌(エレジー)~弦楽オーケストラのために~
◆F.グルダ チェロとブラス・オーケストラのための協奏曲
(チェロ・ソロ・アンコール)
◇マーク・サマー Julie-o(ジュリー・オー)
(休憩)
◆L.v.ベートーヴェン 交響曲第5番ハ短調 op.67
指揮:下野竜也
チェロ:古川展生
ほぼ1年ぶりとなる下野さんの京響定期登場。
読響の正指揮者の契約を来年秋からさらに3年間延長されたことが発表されてましたが、今夏のサイトウ・キネンでの客演指揮など引っ張りだこ状態ですね。
昨年のフランクのシンフォニーの名演奏が記憶にありますが、小菅優さんのピアノによるベートーヴェンの4番コンチェルトでの伴奏もなかなかよかったように思います。
そして今年はメインがベートーヴェン。
開演の1時間以上も前に北山に着いたので暇つぶしにと近くの本屋さんに入ろうとしたら、その隣のコンビニから出てきたらしい下野さん(京響団員らしい男性と2人連れ)とすれ違ってビックリ。
予想外で急なこともあったので、声をかけそびれてしまいました。
間近で見るとホントに小柄なんですね。
その下野さんはプレトークではストライプのYシャツで登場(それでもアンコ型は隠せない・爆)。
「指揮よりも緊張する」などといった挨拶の後に
「さて、今日は何の日でしょう?」
・・・いや、お気持ちはありがたいですが、西郷隆盛や大久保利通と同郷の後輩筋にあたる=鹿児島県人のあなたにお笑いは求めてませんので(苦笑・・・ちなみに答は‘フライドチキンの日’という今日の選曲とは全く関係のない話で、話す様子からしても少しでも場を和ませようと必死で軽い話題のネタを探したんでしょうね・・・)。
で、本題なのですが、特にテーマといったものはなく聴いてもらいたいものを並べた、音楽のデパートみたい、と仰ってましたが、プログラム順ではなくグルダ→ベートーヴェン→岡坂の順で言及されました。
限られた時間でグルダの曲について熱っぽく語る姿や「とても楽しい曲でぜひやってみたかった」と話していたこと、またグルダのベートーヴェンは好んで聴いているとも話していたことから思うに、おそらくはグルダ→ベートーヴェンの順でプログラム構成を考えたのではないでしょうか?
私の単なる推量なのですが・・・。
1曲目。岡坂慶紀という人は数年前まで愛知県立芸大の教授をされていた方のようですが、全くの初耳。
下野さん曰く、フランスのオケから客演を頼まれた際「タケミツ以外の日本人作曲家の曲を」とリクエストされて銀座のヤマハで片っ端から楽譜を見て探している時に出合った曲だそうですが、終始ゆったりときれいな旋律の曲想は祈りにも通じるとフランスでは好評だったらしいです。
「スッと体に入り込んでくる」というだけあって確かに聴きやすくはありました。
平日の夜ですし眠りに落ちた観客も多かったでしょうね(笑)。
グルダの曲が管楽器だけなので労働条件を同じにしたくて(笑)とプレトークで仰ってましたが、それはともかくいろいろとバランスを考えての選曲でしょうし、内外問わず無名の作曲家に触れる機会はこんな時でもないとありませんから、こうしたチョイスはドンドンやって欲しいですね。
2曲目。2管編成っぽい管セクションにドラム、ギター、エレキベース(この人だけロック系の服装でした・笑)、ウッドベース(コントラバス首席の三宅さんが担当)というかなり変わった編成・・・グルダがパラダイスバンドなるものをやっていたということを知ってるならともかく、そうでない人は面食らったでしょうね。
「この曲は1980年の作曲なので、この時期にどういった音楽が流行っていたか思い出しながら・・・」
とのプレトークでの言葉通りというか、第1楽章なんてクラシックオケのブラスセクションで無理矢理フュージョンしてみましたぁー!といった感じで、チェロのソロもちっともチェロで弾いてる気がしない(爆)。
私みたいに10代の多感な時期にフュージョンにハマった人間にとってみれば、そこまで無理してクラシックでフュージョンせんでも・・・という気がしないでもなかったですが、作曲当時は例えば日本においてはカシオペアのデビューが1979年、SQUAREが1978年のデビュー、といった頃。
フュージョン・ブームを知らない人にとっては「ハァ?」だったでしょうね。
第2楽章は一転して民謡風の馴染みやすいメロディー。下野さんがウィーンに留学していた頃を思い出すと仰っていたのでオーストリーのでしょうか?そして第3楽章はほとんどチェロのソロのカデンツァでしたが、これがまたかなりというかジャズのアドリブよりもブッ飛んでいるような。
第4楽章は第2楽章にやや似た感じ。
そして終楽章、解説には
「おもちゃ箱をひっくり返したような」
とありましたが、もっと言うなら“グルダ風ディズニー・ミュージック”、もうやたら楽しく明るく軽やかにドンチャン騒ぎ。
最後にこんな楽しい曲想の楽章だったので、これだけで観客に大ウケだったかもしれません。
客席からも大きな拍手が寄せられてました。
ソリストにとってはとてもシンドい曲だったでしょうけど、古川さんは大変な熱演でした。
上手い人ですよねぇ~。
都響辞めて京都に帰ってきてはいただけないのでしょうか?w
熱い拍手に応えてのアンコールはマーク・サマーの『ジュリー・オー(Julie-o)』、これもあまりクラシックっぽくない曲でしたが、こちらでも古川さんのテクニックをたっぷり堪能させていただきました。
ちなみに、マーク・サマーという人はタートルアイランド・ストリングカルテット(TISQ)のチェロ奏者だそうで、このTISQはジャズのみをレパートリーとしメンバー全員がアドリブの名手という異色の弦楽四重奏団だそうで、グルダの後にこういった人の曲も聴けて、今日は観客にとってもまた音楽の幅が広がった気分。
最後のベートーヴェンの5番。下野さんがキーワードみたいな感じで「構築性」と「前衛性」の2点を挙げられていましたが、まざまざとそれを実感できる快速球の真っ向勝負のような演奏でした。
特にメロディーらしいメロディーもなく単純なフレーズ(パターンだったかな?)をずっと繋げて作り上げた曲とプレトークで仰っていたでしょうか(メモしていたわけではないので不正確ですが)、
「“タタタターン”が400回も出てくるんですよ」
などと例を挙げてましたし、(日本で俗に言う)‘運命’という言葉に惑わされないで純粋に音楽的な構造とそこから得られるイメージを感じ取ってほしいのでは?と下野さんのプレトークを聞いてそう思ったのですが、演奏を聴いてみてヨリ説得力がありました。
第1・2・3楽章はモダンオケにしてはやや速め、そしてほぼインテンポ。
エネルギッシュで圧倒的な推進力があり、そしてカッチリした構築性が明確にわかるような演奏。
後半は指揮台に登場してからほとんど間をおかずに指揮棒を降ろしたほどで相当気合の入った指揮ぶりでしたし、オケも下野さんの気合に負けじと必死についていくような感じです。
ここまできたら終楽章でどんだけ畳み掛けるんだろう・・・と思っていたら、高揚感はあってもテンポ自体は(心持ち僅かですが)グッと抑えていて、改めて確かな歩みでもって着実に造り上げていく印象でした。
帰ってから確認したら、同じAllegroでも第3楽章より終楽章の方が若干ですが遅いんですよね。
ベートーヴェンの書き込んだメトロノームの数字をどう解釈するかはともかく、少なくとも終楽章は第3楽章よりもちょっと遅くという作曲者の意図はあるのでしょうから、勢いだけで突っ込まなかった下野さんがもちろん正解。
こういったところの形式感覚がしっかりしているのはきっと朝比奈さん譲りなんでしょうね。
誰もが知ってる名曲中の名曲、たとえベートーヴェンであっても聴いてる方にとってはちょっとやそっとの演奏ではマンネリ感が漂いそうですが、今日の下野さんと京響の演奏は正攻法ながらも新鮮な感覚で聴くことができ、とても素晴らしい演奏でした。
おそらくこの演奏を聴いた観客はほとんどの人がこのコンビでベートーヴェンの他の交響曲も聴いてみたいと思ったでしょうし、天国の朝比奈さんもきっと合格点を与えてくれることでしょう。
最初にこのプログラムが発表された時には「いくら飛ぶ鳥落とす勢いの下野さんでも今更定期でベト5なんて・・・」と思ったものでしたが、私が浅はかでした。
これだけの演奏を聴けたら大満足です。