前半にショスタコーヴィチのチェロ協奏曲があるってんで、プレトークの時に広上さんに呼ばれて京響副首席の中西さんと一緒にステージに登場した客演首席の山本裕康さん(神奈川フィルの方ですね)、彼曰くチェロ・コンチェルトの中でもショスタコの2番は随一の難曲だそうで、もし自分が弾くとしたら?と水を向けられても、無理無理!考えたこともない、みたいなリアクションされてましたが、ソリストにとってだけでなく伴奏のオケにとっても非常に難しい曲なんだなと実感することになるとは思いませんでした。
こういったことが起こるからクラシックに限らず音楽は生演奏が良きにつけ悪しきにつけやっぱり最高だと感嘆するしかないのですが、今日の演奏も質だけを見れば広上&京響の好調ぶりを象徴するような出来栄えだったにもかかわらず、結論から言うと個人的にはどこかチグハグな印象が拭えず、生演奏は最高だけどもいろいろと難しいもんだと実感した次第。ちなみに、このチェロコンとシューマンの2番は両曲とも病院で作曲されたというエピソードを広上さんと岡田さんが話されてました・・・っつーか、なんでそんなエピソードをわざわざ引っ張りだしてくる?!(笑)
京都市交響楽団 第573回定期演奏会
2013年11月30日(土)14時30分開演@京都コンサートホール
◆D.ショスタコーヴィチ 祝典序曲 Op.96
◆D.ショスタコーヴィチ チェロ協奏曲第2番ニ短調 Op.126
(チェロソロ・アンコール)
◇J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調 BWV1012〜アルマンド
(休憩)
◆F.シューマン 交響曲第2番ハ長調 Op.61
(アンコール)
◇G.ヴェルディ 歌劇『椿姫』〜第3幕前奏曲
指揮:広上淳一
チェロ:エンリコ・ディンド
コンサートマスター:泉原隆志
1曲目の祝典序曲、ブラスのバンダは・・・パイプオルガンの側にいましたね。私の席からは見づらい場所だったので、どこにいるのか演奏が終わるまでぼんやりとしかわかりませんでした。
そして2曲目・・・
ディンドさんのチェロがなんて素晴らしい!!!
パワーとか云々じゃなくて、京コンのあの音響でチェロの音が遠くまでポーンと抜けるように響いているのを聴いたのは初めてです。‘声が通る’と同じ感覚。さすがベルカントの国のお生まれなだけはあります。そして元々の素のスペックが高い上に、ショスタコーヴィチのチェロコンは初演者のロストロポーヴィチ直伝で場数もこなしている(「ショスタコの1番は70回ぐらい、2番は30回ぐらい弾いたと言ってました。」だそうです)だけあって、理解度がもう全然違うというかイタリアン系の音色でも音楽の深みが想像以上にもう段違い・・・なんて形容していいかわからないくらい素晴らしい。
にもかかわらず、この曲がオケにとっても難しいと前に書いたのは、編成が比較的少人数かつ独特(2本のハープが2ndVnの位置に置かれてあったのにはビックリ)で、1番協奏曲のホルンほど極端ではないにしろ、この2番も管打楽器のソロがチェロソロと掛けあう場面がとても多くて、あのディンドさんの高みに合わせないといけない1番奏者が気の毒に思いました。パーカッションは皆さん奮闘してたし、オーボエはフランス人の性格がプラスに作用してたみたいですが(笑)・・・これ、ソロは当然のごとくロストロポーヴィチを念頭に置いてたんでしょうけど、オケも往年のムラヴィンスキー&レニングラード・フィルを頭に置いて書いてただろっ!とツッコミたくなるほど(爆)。セッション録音では首席が1番を担当するからいいとしても、生演奏というか京響は定期の場合、前後半に分かれてる時は前半に副首席(いないパートは個別に約束事があるみたい)・後半に首席がそれぞれ1番を担当するのが慣例になってるようなのですが、今回だけはなぁ・・・ホルンとフルートとクラリネットは首席に出てほしかったですね。ディンドさんに付いていくのにもうイッパイイッパイみたいで・・・どこかチグハグと感じた1つがコレ・・・ともあれ、京響が比較的得意にしているはずのショスタコーヴィチでソリストにソリストからこれだけ気圧されるとは思いませんでした。アンコールで弾いたバッハの無伴奏も心にジワッと沁み入るような、いい具合の渋みがある演奏でしたので、本人のスペックの高さもやはりあるのでしょうけど、それに加えて(ショスタコーヴィチ→)ロストロポーヴィチからの薫陶が如何ほどのものか、それを考えるととても感慨深い演奏でした。
幸いレセプションにも顔を出されていたので、サインも↓
後半はシューマンの2番。意外と演奏機会があまりないというか、生で聴いたのは私は初めて。広上&京響の絶好調さを象徴するような好演だったのですが、管楽器がそれほど目立つ曲でもないのだから首席陣を出すならやっぱりショスタコの方にしてほしかったというもう1つのチグハグさを感じたのもありますけど、第2楽章で急ブレーキ・急加速を多用しているあたりから個人的にはどうも馴染めず、後半楽章もせっかくの良演奏に浸れずじまいで終わってしまいました。私があまりシューマンを好んでないというのもあるのだけど、それにしてもなぁ・・・と釈然としないものを抱えてレセプションに顔を出したのですが、ディンドさんや広上さんが出てくるまでの間に時間繋ぎで岡田さんが「広上さんはノールショピング響の首席だった時にシューマンの2番を録音されてて・・・」とそのディスクを出しながら話をされてて、そんな録音あったんかい?と思いながら聞いていたのですが、読み上げるライナーノーツの中に、バーンスタインもこの曲を好んでいて・・・云々というのを聞いて、愕然としつつも納得しました。
またバーンスタインですか!・・・ (´・ω・`)
いや、音楽家としての偉業には敬意をはらいますし、作曲家としてのバーンスタインはわりと気に入ってるのですが、指揮者としてのバーンスタイン、特に晩年のあのスタイルは生理的に受け付けられないんですよ、個人的に。高関さんが1年前の京響定期で『ラ・ヴァルス』をタングルウッドでバーンスタインにみっちり仕込まれた通りにやってみるってやってて、やっぱりかとガクンときた苦い思い出があるのですが、高関さんや広上さん、そして以前大フィルにいた大植さんもそうだけど、あの世代がバーンスタインに師事したっていうなら’80年代頃ですよね?たぶん・・・お願いだから、あの人が年食ってリズム感やらフレーズ感やらガタガタになった悪い部分まで影響受けないでくださいまし(苦笑)。彼の晩年の劣化って老齢からくるものに加えて、コレペティートアとかオペラの下積みを経験していない致命的な弊害もあると思うんです。だから人間の呼吸や心拍の鼓動といったものを度外視した指揮ぶりでの音楽ができちゃうのかなという気がします。同時代で持て囃されたカラヤンやショルティとの決定的な違いもそこかな、と。若い頃にカラヤンから公開TV番組でまでオペラやれって説教されただけじゃなく勉強の機会も与えてもらった小澤征爾さんは、その点では運が良かったのでしょうね。
閑話休題。
そんな感じで個人的には音楽に入りそこねたシューマンの2番でしたけど、演奏は高品質でしたし、特に弦セクションのクリアでビロードのような響きと繊細さはとてもマッチングがよかったと思います。広上さんがあれだけ動かしてもピッタリついていってたあたりコンビネーションもさすがでしたしね。だからなぁ・・・もうちょっと棒がキレで勝負してくれてたらなぁ・・・(苦笑)。
★ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲集
/エンリコ・ディンド(チェロ)、ジャナンドレア・ノセダ&デンマーク国立響【Chandos】[Hybrid SACD]
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ
・チェロ協奏曲 第1番 変ホ長調 Op.107
・チェロ協奏曲 第2番 ト長調 Op.126
チェロ:エンリコ・ディンド
指揮:ジャナンドレア・ノセダ
管弦楽:デンマーク国立交響楽団(DR放送交響楽団)
録音時期:2010年4月9-10日[第1番]、2011年4月18-20日[第2番]
録音場所:コペンハーゲン、デンマーク放送コンサートホール