TwitterのTLにこういうのが回ってきました。
SNSを介した性犯罪をテーマにした #チェコ のドキュメンタリー映画『SNS-少女たちの10日間-』が4/23(金)より全国で順次上映されます。
「12歳の少女に扮した成人女優3人が、偽アカウントでSNSを使うと、何が起こるのか」を実験し世界を震撼させた作品です。https://t.co/b45vjZjO2e#チェコセンター— チェコセンター東京 / Czech Centre Tokyo (@CzechTokyo) April 6, 2021
まずはこのツイートにあるコラムを読んでみましょう。
◆2458人のオオカミが少女たちを誘う現実を見て、15歳の息子と話したこと――映画「SNS-少女たちの10日間-」にある恐怖【FRaU | 太田奈緒子 2021年4月2日】
映画「SNS-少女たちの10日間-」にある恐怖
チェコで制作された『SNS-少女たちの10日間-』は「12歳の少女に扮した童顔の大人の女優3人が、スタジオ内のリアルに作りこまれた3つの子供部屋で10日間、12歳の偽アカウントでSNSを使うと、どのようなことが起こるのか」を実験したリアリティーショー(ドキュメンタリー)映画だ。
キャッチコピーは「2,458人のオオカミたちから届いた危険な誘い━━世界を震撼させた衝撃のリアリティーショー」。
この映画を15歳の息子と一緒に観てみたいと思った。
少女たちがネット上で受ける性的児童虐待について扱っているドキュメンタリーは、相当ショッキングでどぎつい言葉や映像も多数流れることは容易に想像できる。それを未成年の子供に見せることには当然、賛否両論あると思う。とくにこの映画は「R-15 」指定で、息子はギリギリ鑑賞可能な年齢なので少々、迷いもあった。
まずは私ひとりで試写を観た。想像以上にハードな内容だった。
少女とオオカミ(男性)とのビデオ通話では、いきなり「服を脱いで」と迫るほか、セックスや体のパーツに関するキワどい言葉が大人の男性から少女に向けて遠慮なく発せられる。映像には男性たちの顔も問題の部位も見えないよう配慮はされているもの、男たちのしつこい要求、下劣な行為がこれでもかと映し出される。
〔たった10日間で、少女たちにはさまざまな男からのアクセスが殺到する。映画『SNS-少女たちの10日間ー』より〕恐ろしかった。ショックだった。大人の私もかなり心理的なダメージを受けた。でもこれはチェコだけではなく、日本でも確実に少女たちに起きているはずのこのリアルだ。同世代の息子は知るべきだと思った。
映画の概要を息子に話し、しつこく「かなりショックを受けるかもしれない。観る観ないは自分自身で決めていいよ」と念を押し、彼の気持ちを聞いた。「やめとく」というかなと思ったが、意外にも「観てみたい」と即答した。「キツかったら途中でギブ(視聴中断)あり」で、観てみることにした。
子供のネット使用状況は日本と酷似
チェコでの調査によると、子供の6割が親から制限を受けることなくインターネットを利用し、そのうち41%が他人から性的な画像を送られてきた経験がある。そして知らない人とネット上で話す子供のうち、5分の1は直接会うことにも抵抗を示さないという。
日本の場合、内閣府・総務省が発表した令和元年度の『青少年のインターネット利用環境実態調査』によると、満10歳から17歳の青少年層では93.2%がインターネットを利用している。利用目的としてはSNSなどのコミュニケーションが高校生で90.1%、中学生で75.3%、小学生で41.7%と、動画視聴や音楽視聴などの目的と並んで上位だ。
インターネットの使い方について家庭内でなんらかのルールがあると答えたのは、小学生では77.7%以上、中学生は61.6%、高校生で38.6%。
青少年の保護者の84.8%がなんらかの方法で子供のネット利用を管理していると回答しているが、フィルタリングを使っていると答えた保護者は青少年全体で37.4%。総務省による『インターネットトラブル事例集(2020年度版)』には「コミュニティサイトなどでの未成年によるアプローチ(パパ活、ママ活)」、「自画撮り写真の交換に端を発した脅迫被害」、「心のよりどころだったSNS上の知人による誘い出し」などの具体例が紹介されている。
このドキュメンタリー映画で起こっている少女たちへの大人からの性的アプローチやその手口は「遠い外国での出来事」ではなく、私たちが住むこの国でも実際に多数起こっていると考えざるを得ない。
「“性暴力”の“暴力”って意味が分かった気がする」
最後まで映画を観た息子は、まず最初に「キツかった……」と一言。以下、長い時間をかけて息子がぽつぽつと語った感想だ。
「思った以上にヤバいしキモい。ときどき女子が、TwitterのDMにいきなり下半身の露出写真を送り付けられたーとか、大声でしゃべってたりするから、まぁそういうこともあるんだろうなとは思ってたけど」
「観る前は『エロ画像を見せられるだけで性暴力?』って思ってたけど、男からのトンデモない写真が、メッセージ欄にだだーっと並んで届くシーンを見たとき、はじめて“性暴力”の“暴力”って意味が分かった気がする。あの心を殴られてる感じは、ほんとに暴力だ」
〔3人の少女役の女優(20歳以上)は12歳の少女に扮し、スタジオ内に部屋を作って撮影が行われた。『SNS-少女たちの10日間ー』より〕
〔精神科医、性科学者、弁護士や警察などの相談や立ち合いなどをし、少女役の女性たちに配慮しながら撮影は進められた。『SNS-少女たちの10日間ー』より〕このプロジェクトに関わった性的児童虐待の専門家によると、オオカミたち(SNSで少女らが出会った性的児童虐待者)は、いわゆる「小児性愛者」には当てはまらないという。結婚して、きちんとした仕事も持った普通の男性が、自分の性欲を手っ取り早く満たすためだけに、成人女性よりも簡単にいうことを聞く少女たちを利用しているというのだ。
また衝撃を受けたのは少女たちがコミュニケーションのツールとして使用したSNSが、明らかにいかがわしい「出会い系」ではなく、世界的にもポピュラーで、比較的常識的な使い方をされているイメージのある「Facebook」と「Skype」だったことだ。その部分に関して、息子は「日本はもっとヤバいと思う」という。
「FacebookやSkypeって、10代はあんまり使わない。LINEとかTwitterがほとんどじゃない? あとさ、日本はもっとヤバいSNSがいっぱいある。いかにも出会い系には思わないようなやつ。『サイトウサン(斎藤さん)』とか『ランダムチャット』っていう匿名電話アプリ、知ってる? 他にもあると思うけど」
即ダウンロード可のコミュニケーションアプリ
そんなアプリ、初めて聞いた。周囲の大人たちに聞いてみても誰も知らなかった。
調べてみると、これ系の“匿名電話アプリ”は、たくさんあった。オンラインの利用者同士を無作為に繋いで匿名同士でテレビ電話ができるほか、掲示板、ゲーム、カラオケ動画の配信、ライブ配信が行えるものもあり、10代・20代を中心に2800万以上ダウンロードされたアプリもあるという。
エンタメ系コンテンツも多数用意されているうえ、見知らぬ人といきなり電話がつながってビデオ電話ができ、24時間で電話番号が変わるため「その場限り」であることなど、「嫌な相手なら即切りできて、実名も知られないなら大丈夫」と考える子供も多いようだ。
あからさまな「出会い系アプリ」には見えないから、子供が友達に「おもしろいアプリあるよ」と勧められたら、見ず知らずの人と会話するシミュレーションゲーム的な感覚でダウンロードして利用してしまいそうだ。
ここで一体、どんなことが行われているのか。
「パパ活しちゃう女子中学生とかいっぱいいるって聞く。男側もエロ目的で、実際に会おうとしたり、映画みたいにいきなりヤバい写真送ってきて、『もだえて』とか要求してくる奴がいるんだって。
俺は使ったことないけど、YouTubeのショート動画とかに、匿名電話アプリを使ったエロおやじとの会話を録画した動画をアップしてる女子とかネカマがいるから、その動画は見たことあるよ」(息子)いかにも「出会い系」なら躊躇しても、ゲーム感覚の匿名電話アプリとなれば、子供たちの警戒感はぐっと下がり、アプリ提供側が設定している年齢制限以下でも簡単に偽って、気軽に利用してしまう危険性は高い。
見せちゃダメだし、見せろと言うのも絶対、ダメだ
映画の話に戻ろう。
3人の少女たちは、オオカミたちの執拗な攻撃に翻弄されるが、奇跡的な救いも起こる。「あのシーンはジーンときた。男が全部あんな変態とか犯罪者じゃないよって思ったし、俺自身も被害に遭ってる女の子たちに感情移入してたから救われた。男も女もやっぱり大切な部分は、心から好きじゃない人には見せちゃダメだし、見せろと言うのも絶対、ダメだ」(息子)
以前から口うるさく言ってきたことではあるけれど、息子自身から発せられたこの言葉だけでも、映画を観せてよかったと思った。
「なんか気持ちがドーンと落ちたことは事実だけど、後悔はしてない。観てよかった。みんなに気軽に『オススメ』はできないけど、すごく大切な友達(女友達含む)が、なんかヤパそうなことになってると感じたら『一度観てみれば?』っていうかも。あれ観たら、きっと引き返してくれるよね」(息子)
〔3人の女優は同意しているものの大量のオオカミたちのアクセスに戸惑いも隠せない。右はヴィート・クルサーク監督。『SNS-少女たちの10日間ー』より〕「OSが違う」世代でもリアルな経験値は浅い
新学期シーズンの今、卒入学がある3、4月は、「自分だけの」スマホを手に入れる時期でもある。「塾通いで電車に乗るから」「進学先がバラバラの友達と連絡先を交換するから」という子供らの熱心なおねだりに押され、親も「まぁ、そろそろ持ってもいいか」とスマホを買い与える。そして子供たちは、自分のアカウントでインターネットの世界にデビューする。
先日、Twitterで「娘を見ていると『OSが新しいな』と思うし、性能のよさなんて自分をとっくに超えている。ただ経験がないだけだ」というツイートに深く共感した。
とくにデジタル機器の扱いやネットとの親和性に関しては、黒電話、留守番電話、ポケベル……を経て今のネット環境にたどり着いた私たち世代に比べ、生まれた時からインターネットが完備され、携帯の写メやムービーで成長を記されてきた子供たちは、まさにOSが違う。
〔SNSに危険があるだろうと思ってもリアルに危険性を親も本人も感じられない。この映画はトンデモナイ世界を恐怖を体感させてくれる。『SNS-少女たちの10日間ー』より〕彼らは幼いころからIT機器の操作に慣れている。親のスマホやタブレットで動画をみたり、夕食の準備に忙しいママに代わってパパの帰るメールにLINEで返事したりしてきたのだ。「OSが違う」彼らは、スマホの操作に戸惑うことはない。いとも簡単にネットの世界に泳ぎだしてしまう。
でもインターネットにデビューした彼らは、ネット上でもリアルでも圧倒的に経験値が少ない。それに加えて、知らない世界への好奇心や、異性への関心、性への興味もMAXなお年頃。また自立心の芽生えから両親や周囲の大人と対立し、心の中に寂しさを抱える子供も少なくない。ドラクエでいえば、インターネットというリスク満載の広い世界に「こん棒と旅人の服という粗末な装備とわずかなHPで、大冒険にひとりぼっちで挑む主人公」なのである。
自分の子供時代も、親に隠れて成人誌を回し読みして性の知識を仕入れたり、下ネタ満載の深夜ラジオをこっそり聞いて妄想を膨らませ、リアルな世界で試してみては、たくさんたくさん失敗したり、赤っ恥をかいてきたが、ほとんどはこっぴどく叱られる程度で済んだ。
でも新OSの今の子供たちは、いきなりリアルで少女が大好物な凶悪なラスボス(オオカミたち)と戦わなければならないのだ。運が悪ければ、その「失敗」の映像や動画が永遠にネット上を漂ったり、警察沙汰になったりする。いくら性能がよくても、シビアすぎる。今回の映画では少女が題材だがもちろん、男の子がターゲットになることもある。
しかしだからといって、彼らを危険から守るために、スマホを取り上げ、ネットから遮断してしまえばいいとは決して思わない。ネットは現代社会で生きるためにもなくてはならないインフラのひとつだし、成人してからいきなりネットと関わらせれば、よけい深刻なトラブルに巻き込まれる可能性だって高い。
オオカミたちは、自分の悪事を追及されると口をそろえて、悪いのは自分たちではなく「子供の管理ができない親が悪い」というが、それは違うと思う。
OSの古い大人がいくらフィルタリングをかけても、最新型の彼らにはハードルとすら感じないのが実情なのだ。危機感を抱く親たちはもちろん、学校や地域での教育や対策が完全に後手に回っているのがもどかしくてたまらないが、私自身、今のところ彼らを守る方法の正解は、見つからない。
でも、この映画を観て実情に気づき、問題の深刻さを体感することはできる。子供を持つ親にはぜひ観て考えてほしい。「気持ち悪い」「不快」と、目をそらしてはいけない現実がある。我が子が被害者になって命を落としたり、心に大きな傷を負ったり、万が一にも加害者になったりしないためにも。
〔彼女たちが見た世界は、日本にも日常的に転がっている。『SNS少女たちの10日間ー』より〕
『SNS-少女たちの10日間-』[http://www.hark3.com/sns-10days/]は今月4月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次ロードショーされるそうです。公式サイトによると、京都では烏丸通姉小路の新風館に入っているアップリンク京都で4月23日から公開されるそうなので、PAでガンガン鳴らされるのが嫌いで映画館にはほとんど行かない私ですが、機会があれば行こうかなと考えてます。半年か1年後にでもBlu-rayでリリースされるのがわかっていれば販売を待って購入して家で観るのですが、チェコの映画を日本語字幕で出してくれるかどうかわかりませんしね。