心・技・体、教育的古典狂言推進準備研修錬磨の会「TOPPA!」(全部言うたら舌噛みそ)というのは狂言の茂山千五郎家[http://www.soja.gr.jp/]の若手で作ったグループで、毎年夏に東京と京都を中心に公演をしていたのですが、今年で最後にするいうことで、茂山千三郎さんが披く『狸腹鼓(たぬきのはらつづみ)』をメインにしてました。
今年6月に行われたものをなぜ今頃話題にするのかというと、私が観た京都公演2日目のがCSスカパーの京都チャンネルで今晩放送されたのを改めて観たからです。京都チャンネルでは毎週水曜19時から「茂山狂言アワー」という番組があるのですが、9月にも昨日の分が再放送されるのでぜひ視ていただければと思います。
さて『狸腹鼓』は狂言の中で『釣狐』『花子』と並んで格別に時間が長く(1時間程)修業が非常に大変なものだそうですが、私は今回の千三郎さんが演じたもので初めて観ることになりました。大まかなストーリーは、狸取りを得意とする猟師のところに女狸が尼に化けて現れて殺生をやめるよう意見して、猟師は一度は騙されるものの狸と知って弓矢で狙いをつけるが、尼が命乞いをするので猟師は腹鼓を打つところを見せれば助けようと答え、狸は早変わりで正体を現し腹鼓を打って猟師とともに興ずる、というもの。茂山家に伝わる台本は江戸末期にあの井伊直弼が手を加えたものだそうです。シテの狸役が千三郎さんでアドの猟師役が茂山千五郎さんでした。
曲の構造が『釣狐』と似ていて人間と動物の生死を賭けた緊張感のある心理戦といった趣きがベースなのですが、大きく異なるのは猟師が狸に芸をするよう持ちかけるところからで、ここからほのぼのとした雰囲気に変わります。千三郎さんがこれ見よがしに何かを強調するという演じ方をしなかったこともあって、こちらも全体の筋の流れが掴みやすく自然にこの“劇”の中に入り込むことができてよかったです。以前観た茂山千之丞さんの『花子』が典型ですが、ホントに巧い人が演じるこういった狂言の大曲はどこかしらモーツァルトのオペラを連想させてくれます。よくよく考えたら笑うに笑えない人間模様めいた何かをさらっとした笑いのオブラートに包んで見せてしまう、というところで。
TVならではで舞台裏も紹介されてあったのですが、終わった直後の消耗しきって酸素吸ってる千三郎さんに衝撃を受けました。狸の着ぐるみで長時間舞台上で演じるわけですから体力の消耗は当然ですが、観る側には少しもそれを感じさせてませんでしたから。