ブロムシュテット&シュターツカペレ・ドレスデンの‘第9’

個人的にはあまり好ましく思っていない現象なのですが、日本の師走はクラシック界にとっては‘第9’のシーズンでもあります。つまりは稼ぎ時ということで・・・。
ちなみに、CDで聴くなら何がいいか?みなさんの愛聴盤はどれでしょう?
私の場合、録音年代度外視ならフルトヴェングラーの“バイロイトの第9”なのですが、他人に勧めるのに半世紀前のモノラル録音というのもアレなんで(とは言っても演奏のみで語ればこれ以上のものは存在しえないと思いますが)、ここではステレオ録音で、ヘルベルト・ブロムシュテットさんがシュターツカペレ・ドレスデンを指揮した2種類の録音を紹介します。
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左がシャルプラッテンのスタジオ録音(1979&80年)の国内盤右が第2次大戦によって焼け落ちたゼンパー・オーパーの再建記念コンサート(1985年3月)のライヴ録音です。
この2種の録音に関しては『An die Musik』というサイトで詳しく論じられていますので、私があれこれ知ったかふりして言うこともないのですが、まずブロムシュテットさんとシュターツカペレ・ドレスデンが旧東独のレーベルに残したスタジオ録音の方は、この曲をじっくり味わうにはうってつけだと思います。ブロムシュテットさんの人柄を感じさせるような音楽に誠実に向き合った演奏で、オケの音色も弦・木管・金管、そしてティンパニも!素晴らしい響きです。まるで、手作りで丹念に作り上げられ長年大切に使われてきたアンティーク家具を見るよう。
そして、ライヴ録音の方はただ一言、
熱いです!!!
あのドレスデン絨緞爆撃による破壊から40年ぶりに再建されたゼンパー・オーパーで演奏されたものですが、並々ならぬ緊迫感の中での非常に熱い演奏で、前述のスタジオ録音と同じ指揮者とオケとは、一聴しただけではちょっと想像しにくいかもしれません。理知的に見えてライヴではハートの熱さも感じさせてくれるブロムシュテットさんを私も京都で見てはいますが、あの来日公演の時よりもまだ20歳ほど若くて、しかもドレスデンの伝統の重みを感じさせてくれる施設の再建なっての記念公演、熱くなるなと言う方が無理ですよね(笑)。
録音が「単なる音楽の記録」以上のものになっている事例は、クラシックファンの方なら“バイロイトの第9”はもちろんですが、1945年5月27日のフルトヴェングラーの戦後復帰演奏会(非ナチ化裁判での無罪判決を受けて)でのベルリン・フィルを指揮したベートーヴェンの5番や、あるいは前記の2枚とは事情がまるで異なるのですが、ナチス・ドイツによるオーストリア併合(アンシュルス)の2ヶ月前になる1938年1月16日にワルターが指揮したウィーン・フィル定期でのマーラーの9番、そして1945年1月28日、フルトヴェングラーがゲシュタポの魔の手から逃れてスイスに亡命する直前にウィーン・フィルを指揮した演奏会でのブラームスの2番などに始まって他にもいくつか挙げることができると思うのですが、このゼンパー・オーパー(旧東独時代はドレスデン国立歌劇場、現在ではザクセン州立歌劇場の愛称で、建築家のゴットフリート・ゼンパーが設計したことに因んでいます)再建記念のライヴもそれらの末席に連なると思います。
上に挙げたゼンパー・オーパーのライヴCDは私が4年ほど前に500円ちょっとで入手したものですが、これと同じものは今は入手困難のようです。LPの時代から何度か再発されているようですので、またリリースされることがあったら、ぜひ購入して聴いてみてください。