小澤征爾さんの後任で2010/11シーズンからウィーン国立歌劇場音楽監督に就任することが決まったフランツ・ウェルザー=メスト。ウィーンに行ってしまったら日本で聴く機会がガクンと減ってしまうので(だって来日してもチケット取りづらいでしょ?)、今のうちに彼を見ておきたい、というのもありましたし、ニーナ・シュテンメやヴェッセリーナ・カサロヴァら1度生で観たかった歌手も出演するので、思い切ってチケットを取った、今回のチューリッヒ歌劇場[http://www.opernhaus.ch/]初来日公演。
そして・・・
今日の午後に東京から無事帰ってきました。
東京なんて何年ぶりか、渋谷なんて10年以上近寄ってないし・・・やっぱり京都の方が1万倍良いよなぁ・・・観るもの観てサインもらって(もらえたらの話ですが)、さっさと京都に帰りたい、台風も来てるし・・・
なんて考えてるからカチ合うのでしょうか?美智子様と(爆)。
朝比奈さんが都響に客演してブルックナーの5番を指揮された時にお見かけして以来(その時は両陛下揃ってでした)、十数年ぶり・・・かな?ウェルザー=メストとお知り合いだそうですね。でも(SPその他除けば)御一人だけ、というのも寂しいですが、天皇陛下は公務多忙か体調か・・・。
チューリッヒ歌劇場 日本公演
2007年9月4日(火)18時開演@Bunkamuraオーチャードホール
◆R.シュトラウス 楽劇『ばらの騎士』
指揮:フランツ・ウェルザー=メスト
演出:スヴェン=エリック・べヒトルフ
陸軍元帥ヴェルデンベルク侯爵夫人:ニーナ・シュテンメ(S)
オクタヴィアン:ヴェッセリーナ・カサロヴァ(Ms)
ゾフィー:マリン・ハルテリウス(S)
レルヒェナウのオックス男爵:アレフレッド・ムフ(Br)
フォン・ファーニナル:ロルフ・ハウンシュタイン(Br)
マリアンネ:クリスティアーネ・コール(S)
ヴァルツァッキ:ルドルフ・シャシング(T)
管弦楽他:チューリッヒ歌劇場管弦楽団・合唱団
演出に関しては前もって若干の情報を得ていたとはいえ、クライバーの映像でしか『ばらの騎士』を観たことのない私にとっては、あの舞台はさすがに面食らいました。まず第1幕では一面大きなガラス窓で日の光がサンサンと差し込んで・・・そこまではまだいいのですが・・・えぇ?!ベッドじゃなくて布団!?(しかも片付ける時にオクタヴィアン扮したマリアンデルが男爵に畳むのを手伝わせたのは面白かったけどかなり変・・・気に入った娘の気を惹くためなら少々のことは何でもやる、いうことでしょうか?)執事・召使は皆インド風の白い服装。テノール歌手は大きな箱に入った機械人形みたいな格好で出てくるし。そして第2幕はガラス窓があって外から中の様子が見えるようになってる台所。第3幕は第1幕と同じ部屋(ということは伯爵夫人の!・・・えぇ???)の中にモンゴル風のテント、東洋風の絵のある4面の屏風にテーブルと椅子(テントの屋根は上から細いロープで吊るされてあったのですが、伯爵夫人が現れる前のドタバタの辺りだったかにペシャンコになりました)。1・2幕はまだしも3幕はさすがに違和感ありまくりでした。第3幕は伯爵邸でもファーニナル邸でもない場所、「事件」が起きた時に警官が簡単に踏み込める場所でないと、後の展開に繋がりにくいと思うのですが、あれは元から警官も巻込んだ壮大な「釣り」・茶番劇ということを表現したかったのでしょうか?皇后陛下が第3幕から御覧になられてましたが、さしもの美智子様もいきなりあのセットでは慣れるまで「???」だったかもしれませんね。
ただ、舞台セットには疑問を感じることが多かったものの、人物描写に関してはなるほどと思わさられた部分も結構多かったです。第3幕で伯爵夫人に感情や内面の葛藤をハッキリと動作で表に出させたり、ラストシーンで伯爵夫人がガラス扉の外からへばりついたように部屋の中を覗かせてたり、という辺りは、彼女の32歳という年齢設定を考えれば、そりゃあその歳で女を捨てて割り切れなんて無理があるし、現代感覚ならば尚のこと32歳は女盛りですし、無理もないかなぁ・・・と。ただそれでも演技と歌詞が噛み合わないような印象を持ったのも事実で、ちょっとやりすぎじゃないかとは思いましたが。
それから第2幕で男爵がオクタヴィアンに刺された後のシーン、男爵のお供の人間が助けに来るどころか1人も出てこなくて、彼の孤独っぷりというか存在感の浮きっぷりの演出はナカナカと思いましたし、ヴァルツァッキに見つかる直前のオクタヴィアンとゾフィーが2人で語り合うシーンも、もう本当に2人だけの世界に浸りきってます、というのを表すように台所にいた使用人たち(10人はいたかしら?)が皆ピタッと動きを止めていて、2人が延々と歌ってる間も全く微動だにしないんです!あれは本職の役者さんでもシンドイと思いますよ~。2重唱もよかったけど、後の使用人さん達にもブラボーしたい気分でした(笑)。また同じ第2幕の最後の方でワルツを踊ったのが足を刺された男爵ではなくオクタヴィアンのお供で銀のバラを持ってきた年寄りの男性だったのですが、その老人がワルツの間しばらく手に持っていた銀のバラを最後の最後にガシャンと落としてサッと幕が切れるんですよね。そうした第3幕への暗示というバックの音楽と反対のシリアスな趣向も面白いなと思いながら観てました。
オクタヴィアンとゾフィーも現代感覚で歳相応に描かれていて思春期のまだ世間知らずの少年少女といったところで、例えばゾフィーが男爵と初めて対面するシーンで、膝まずいて挨拶したまではいいけど顔を上げて男爵の外見に失望した時にホントに漫画チックな動作でガクッとしたところなど、ちょいとお行儀が悪すぎないか?という気もしましたが、ただのお金持ちの市民階級の家の娘なんだからそれでいいのかもしれませんし、男爵の言動にカチンときたオクタヴィアンが男爵に詰め寄るシーンでも、最初の方では男爵がオクタヴィアンの首根っこを捕まえて
「まだまだケツの青いガキだな。それで俺様に敵うとでも思っているのかい?」
という風に軽くあしらわれてしまう演技を2人にさせていたのはユニークでした。
そうしたナルホドと感心させられた演出も多かったので、第3幕での伯爵夫人の扱いには余計に疑問を感じました。30代前半という年齢ならば持ってもおかしくない感情を押し隠して表向きは毅然とした態度をとってこそ、あのシナリオと歌詞があると思いますので、あそこまで伯爵夫人の深層心理(そういえば彼女の第3幕での衣装もやや赤みがかった黒を基調としたもののように見えましたが、オクタヴィアンやゾフィーの白に近い明るい色とは見事な好対照にしていました)を顕在化させる必要があったのかなぁ・・・という気がします。頭でわかってはいてもいざ現実を目の前に突きつけられて、それでようやくキッパリと「時よ止まれ、お前はいかにも美しい」なんていう儚い願望というか誘惑みたいなものを断ち切るという元帥夫人の行為があるからこそ、あの美しい三重唱でのゾフィーの“wie in der Kirch’n(教会にいるみたい)”という歌詞に繋がると思うのですが、どうなんでしょう?マリア・テレジア治世下のウィーンという設定にも拘らずああいった舞台セットだったこととか、R.シュトラウスとホフマンスタールの共同作業の作品の且つホフマンスタールの台本で、しかも時代設定が作曲当時からも現代からもそう極端には離れていない時期にカッチリ定められているこの作品に、今回のような演出の入り込む隙はないのでは、と私は思います。ワーグナーだったら巧くはまりそうな感じでしたが・・・。DVDもほとんど同じような感じらしいので、よかったら買って確かめてみてください。私も財布に余裕ができれば(笑)買おうかな、と思います。
いえ、ただ単に私の一番のお目当てが(ウェルザー=メストと)ニーナ・シュテンメで、もうちょっとカッコいいというか麗しくお美しいシュテンメの伯爵夫人を見たかったな、という願望があったことは否定しませんよ、ええ、ええ(爆)。
音楽に関しては、誰がどうとかどの歌手がどうとか言うよりも、ウェルザー=メストの堅実で且つリズム感のいい、小気味よく流れるような音楽作りの指揮の下、オケ・歌手・合唱が皆一体となった、素晴らしいものを聴かせていただきました。あれほど一体感を感じる音楽を聴けるとは思っていませんでしたので、それだけでも京都から急遽駆けつけた甲斐がありました。
それと、普段はわりと拍子をきちんと振って左手でせわしなく合図を送ったりしながら、ワルツの場面では一転してリラックスした様子で左手はオケピットの仕切り板について右手の棒のみで優雅に腕を動かすウェルザー=メストに思わず微笑んでしまったり(笑)、アンサンブルの精度の高さを見せてくれたオケの皆さんも、ただ上手いだけではなくて一生懸命さとか情熱とかがビンビン伝わってきて良かったです。あと、決してベストではなかったのでしょうが、それでもやっぱりシュテンメもカサロヴァもいいですよね~。もし機会があったらシュテンメのイゾルデは観たいよなぁ・・・と思ったり。
皇后陛下がいらしてましたので、サイン会はないかもしれないし、やるとしても23時半頃・・・というアナウンスでしたが、ダメモトで並んでみようかと思い列に並んで待つこと・・・何十分も待った甲斐がありました!(ブラボ~)
慌てて撮ったのでピンボケな上に私の指まで写りこんでいますが(苦笑)、手前からマリン・ハルテリウス(ゾフィー)、シュテンメ、カサロヴァ、アレフレッド・ムフ(オックス男爵)の各氏です。マエストロは帰られたそうでいらっしゃいませんでしたが、スケジュール考えたら当然でしょうね、仕方ないです。歌手の方々にサインをいただけただけでもとても幸運でした。その上カサロヴァさんには彼女自ら用意していた写真にサインをしてプレゼントいただきましたし。シュテンメさんは間近で見ると想像通りにお美しい方・・・でもやや疲れたご様子でした。中3日ありますが東京は暑いし(彼女はスウェーデン人)、ちょっと心配・・・。
そんなこんなで『ムーンライトながら』には当然乗り遅れ、かといって渋谷で夜を明かすのは嫌(というか恐い)だったのと東海道線の始発が品川からでしたので品川駅まで行ったのですが、現地に行って気づいたこと・・・この辺りってネットカフェ無いのか(自爆)。仕方なくファミレスとコンビニで4時半の始発まで粘りました。京都にドップリと浸かってしまった私にはやはり東京という地はどうにも肌が合いません。びわ湖ホールがチューリッヒ歌劇場を招聘してくれればこんな目に遭わずに済んだんですけどね・・・。ドレスデンとかベルリンとかまでは言いませんが、イタリアの歌劇場は呼ぶくせに何故チューリッヒは呼んでくれないのかと小一時間・・・。
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ウェルザー=メストがウィーンに転出してしまったら、たとえチューリッヒといえど彼との共演は限りなく可能性が薄くなるのでしょうけど、幸いにしてこのコンビで手がけたオペラはDVDで数多くリリースされていますので、この名コンビの記録を今からでもたっぷり堪能することができます(生に如くは無しなんて野暮なことは言いっこなしで・苦笑)。
しとらすはあまり好んでオペラを観る方ではないし、観るにしてもワーグナーなどドイツものが多いのですが、そんな私にピッタリだったのがこの『タンホイザー』と『ニュルンベルクのマイスタージンガー』
これらのディスクでも東京公演で感じたのと同様に、ウェルザー=メストとチューリッヒ歌劇場オケによって紡ぎ出される音と響き、序曲や前奏曲の出だしから音楽の運びがとても自然な感じでいいですね。それからタンホイザー役とヴァルター役で両方出てるペーター・ザイフェルトが惚れ惚れするほど艶のある声で演技もよくて、『タンホイザー』のヘルツォーク、『マイスタージンガー』のレーンホフによる演出もなかなかいいと思います。両方観ることのできたチューリッヒのオペラファンが羨ましいですね。