ペンデレツキ:ルカ受難曲、ウトレンニャ、ポーランド・レクイエム/アントニ・ヴィト&ワルシャワ・フィル、他

今回のグラミー賞でベスト・クラシカル・コンペディアム部門にノミネートされた作品の中には、Naxosレーベルからリリースされたアントニ・ヴィト指揮ワルシャワ・フィルによるペンデレツキの管弦楽作品集があります(→http://ml.naxos.jp/album/8.572482 ※2月11日追記:めでたくこの部門でのグラミー賞受賞が発表されました)。
2008年作のホルン協奏曲「冬の旅」以外は『フォノグラミ』など’60〜’70年代の作で、一聴して随分と尖った印象を持ったのですが、さすがに尖りすぎて(苦笑)ちょっとここで採り上げ辛いと思いつつも興味を持って他にあたったのが下記に挙げた3曲です。

大音量の衝撃の一撃で始まり憂いを帯びた響きともとれる大合唱で幕を閉じる『ルカ受難曲』、テキストにロシア正教で使われている古代スラブ語を用いキリストの埋葬とキリストの復活という2部構成をとっている『ウトレンニャ』(ウトレンニャとは聖週間あたりの朝の礼拝を意味するそうな)、民主化前にあったポーランドの独立自主管理労働組合“連帯”からの委嘱がきっかけで作曲が開始されカティンの森事件やワルシャワ蜂起なども念頭に織り込みながら筆が進められた『ポーランド・レクイエム』。

ともかく、3曲とも聴いていて多大な衝撃を受けました。
そして、ただそれだけでなく、どこかしら惹きつけられるものがありました(さすがに次からこれらの曲を聴くときは此方も相応の心の準備をしないと聴けないなとは思いましたが・苦笑)。
作曲年代が異なるのでそれぞれにスタイルの違いが多少見受けられますけど、オーケストラはもちろんのことヴォーカルというかコーラスの独特の使い方がとても印象深く魅力に映ったというのが初見での理由です。

でも、それだけではない気が、自分にはします。

私は長崎の生まれです。
そしてローマ教皇として史上初めて日本を訪れたヨハネ・パウロ2世はポーランド人です。
“連帯”の活動でも精神的な支柱として後押ししポーランドの民主化運動に大きな影響を与えた御方でもありますが、彼が1981年2月23日から3泊4日の日程で来日した際に長崎で1泊2日を過ごされ、25日夜に浦上天主堂で司祭叙階ミサを、26日朝に長崎市営松山競技場特設会場において長崎・殉教者記念ミサを司式されました。
私はクリスチャンではないのでミサに出席したとかいうのはなかったのですが、その日は珍しく雪の降った長崎にローマ教皇がいらっしゃったというのは地元で大ニュースになりましたし、今から振り返っても長崎来訪には格別の意図があったのではないかと推測できます(日本滞在中半分近くを長崎で過ごされたわけですから)。
キリスト教を介しての長崎とポーランドの繋がり・・・ペンデレツキのこの3曲の宗教音楽になんとなく惹かれたのも何かの縁かもしれません。

もう1点ググってるうちに見つけた事実。
『ポーランド・レクイエム』は第2バチカン公会議の後に作曲されたにもかかわらず、「Dies Irae」以降の「続唱(怒りの日など)」やアニュス・デイ、リベラ・メなどに第2バチカン公会議で改正された点が反映されてない旧ミサ典礼文を用いていることであり、各々の曲自体も改正以前のスタイルで例えばヴェルレク(イタリアの文豪アレッサンドロ・マンゾーニを追悼するためにヴェルディが作曲した当時の時代背景を考慮して比較するのも興味深いでしょう)に近い構成をとっていると言えばわかりやすいかもしれません。
そして第8曲「Recordare Jesu pie(思い出してください)」はアウシュビッツで身代わり処刑されたポーランド人のマキシミリアノ・コルベ神父が1982年に列聖された際の列福式のために書かれた曲だそうですが、そのコルベ神父もまた長崎に格別の縁のある方なのです(日本語版「無原罪の聖母の騎士」誌を出版したり聖母の騎士修道院を設立したりしている)。
クリスチャンでなくとも長崎っ子としてはこれは無視できません。

そんなこんなで聴き通すうちに結局は惹きつけられることになったペンデレツキの3つの大曲ですが、オーケストラと合唱の演奏水準も純粋に高いと思いますし、なによりタクトを振るう指揮者アントニ・ヴィト、Naxosレーベルに数多くの録音を残している彼の力量は侮りがたいものがあります。
特にペンデレツキは彼が作曲で師事したことがあるそうですし。今回グラミー賞にノミネートされたディスクがどういう結果になるかはわかりませんが、そういった点を除いてもヴィトの指揮には高い評価を与えてしかるべきでしょうし、私も彼のこれまでの録音を他にもいろいろと聴いてみるつもりです。

 

ペンデレツキ:ルカ受難曲/アントニ・ヴィト&ワルシャワ・フィル、他【Naxos】

クシシュトフ・ペンデレツキ
・ルカ受難曲
指揮:アントニ・ヴィト
管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
合唱:ワルシャワ・フィルハーモニー合唱団、ワルシャワ少年合唱団
福音史家:クシシュトフ・コルベルガー
ソプラノ:イザベラ・クロシンスカ
バリトン:アダム・クルシェフスキ
バス:ロムアルト・テサロヴィチ
オルガン:ヤロスラフ・マラノヴィチ
録音時期:2002年9月1-3日
録音場所:ワルシャワ、フィルハーモニック・ホール
http://ml.naxos.jp/album/8.557149
511n6o4k74l

 

 

ペンデレツキ:ウトレンニャ/アントニ・ヴィト&ワルシャワ・フィル、他【Naxos】

クシシュトフ・ペンデレツキ
・ウトレンニャ
指揮:アントニ・ヴィト
管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
合唱:ワルシャワ・フィルハーモニー合唱団、ワルシャワ少年合唱団
ソプラノ:イヴォナ・ホッサ
メゾ・ソプラノ:アグニエツカ・レーリス
テノール:ピョートル・クシェヴィチ
バス:ピョートル・ノヴァツキ、ゲンナジー・ベズベンコフ
録音時期:2007年9月24-27,30日、12月3-4日
録音場所:ワルシャワ、フィルハーモニック・ホール
http://ml.naxos.jp/album/8.572031
8572031

 

 

ペンデレツキ:ポーランド・レクイエム/アントニ・ヴィト&ワルシャワ・フィル、他【Naxos】
クシシュトフ・ペンデレツキ
・ポーランド・レクイエム
指揮:アントニ・ヴィト
管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
合唱:ワルシャワ・フィルハーモニー合唱団、ワルシャワ少年合唱団
合唱指揮:ヘンリク・ヴォイナロフスキ
ソプラノ:イザベラ・クロシンスカ
アルト:ヤドヴィガ・ラッペ
テノール:リシャルド・ミンキエヴィチ
バス:ピョートル・ノヴァツキ
録音時期:2003年6月
録音場所:ワルシャワ、フィルハーモニック・ホール
http://ml.naxos.jp/album/8.557386-87
51mf73ehf5l

 

 


 

 

ちなみに、上記3曲に加えて『テ・デウム』なども収録した5枚組BOX『ペンデレツキ:合唱作品集』というのがほぼCD1枚分という破格の安値でリリースされてますので、NMLで聴いてみて購入まで興味を持たれた方は音源が同じのこのBOXの方を検討した方がベストかと思います。

 

ペンデレツキ:合唱作品集/ヴィト&ワルシャワ・フィル、他(5CD【Naxos】

クシシュトフ・ペンデレツキ
・ウトレンニャ
・ポーランド・レクイエム
・ルカ受難曲
・テ・デウム
・聖ダニエル讃歌
・ポリモルフィア
・ポーランド・レクイエム〜「シャコンヌ」〔※2005年作、ヨハネ・パウロ2世を追悼して書かれた弦楽合奏曲〕
指揮:アントニ・ヴィト
管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
合唱:ワルシャワ・フィルハーモニー合唱団、ワルシャワ少年合唱団

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