ジェニファー・ヒグドン:管弦楽のための協奏曲

8月1日付で登録公開されたナクソス・ミュージック・ライブラリでのNAXOSレーベルの新譜、アダム・フィッシャーがデンマーク室内管弦楽団とはじめたハイドン後期交響曲の再録音第1弾とともに注目したいのが、アメリカの現代作曲家ジェニファー・ヒグドンの『デュオ・デュエル』『管弦楽のための協奏曲』を収録したアルバムです。

 

ジェニファー・ヒグドン:デュオ・デュエル、管弦楽のための協奏曲/ロバート・スパーノ&ヒューストン交響楽団【NAXOS】

ジェニファー・ヒグドン
・デュオ・デュエル
・管弦楽のための協奏曲

指揮:ロバート・スパーノ
管弦楽:ヒューストン交響楽団

録音時期:2022年5月6-8日(デュオ・デュエル)、2015年4月17-19日(管弦楽のための協奏曲)
録音場所:テキサス州ヒューストン、ジェシー・H・ジョーンズ・ホール

https://ml.naxos.jp/album/8.559913

【ピューリッツァー賞とグラミー賞受賞、アメリカで最も注目される作曲家ジェニファー・ヒグドンの爽快な協奏曲集】
シカゴ・サンタイムズ紙が「モダンでありながら時代を超えている」と絶賛する作曲家ヒグドン。メロディとハーモニーを効果的に使うネオ・ロマン主義的な作風とオーケストラがよく鳴るスコアを書く技術で、アメリカで最も人気のある作曲家の一人です。
初録音となる「デュオ・デュエル」は単一楽章、演奏時間24分近い作品。二人のパーカッション奏者とオーケストラのための協奏曲で、パーカッションが繰り広げる「デュエル」に対し、オーケストラが時に冷静になれと呼びかけるように、時に激しく盛り上げるように絡んでゆきます。
「管弦楽のための協奏曲」はフィラデルフィア管弦楽団の創立100周年を記念して委嘱された作品で、2002年6月12日にヴォルフガング・サヴァリッシュの指揮で初演されました。バルトークの同名作品と同じ5楽章構成で、フィラデルフィア管の腕利き奏者を想定した名人芸が至る所に発揮されています。祝祭的な雰囲気を湛えた第1楽章、弦楽器をフィーチャーした第2楽章、緩徐楽章に相当し各楽器のソロを堪能できる第3楽章、静と動の対象が印象的でパーカッションが活躍する第4楽章、エネルギッシュな音の動きが見事な最終楽章と、オーケストレーショ ンの名手ヒグドンの手腕が十二分に発揮された名作です。
指揮者のスパーノはヒグドンと一歳違いで早くから交流があり、ヒグドン作品を積極的にとりあげています。「管弦楽のための協奏曲」は2003年録音のTelarc盤以来の再録音。作品のすみずみまでを知り尽くした見事な演奏を聴かせます。

 

“管弦楽のための協奏曲”――日本では“オケコン”と略するファンもいますね――という名のついた曲というかジャンルは、超有名なバルトークの最高傑作を筆頭に、ルトスワフスキ、ヒンデミット(“管弦楽のための協奏曲”の創始者で1925年に作曲)など20世紀から21世紀にかけて数多くの作曲家が手掛けていますが、ヒグドンのオケコンは21世紀の再工作の1つになるであろう可能性を秘めていると思います。

この曲の存在を知ったのは、京響の常任指揮者に就任して間もない頃の広上淳一さんが、当時掛け持ちでシェフを務めていたアメリカのコロンバス交響楽団で定期演奏会のプログラムに載せていたのを見つけた時で、アメリカの有名な女性作曲家がどんな“オケコン”を作ったのだろう?と興味が湧いたものの、その頃はナクソス・ミュージック・ライブラリを探しても見つからなかったので、記憶を頭の片隅に置いたままにしていたのでした。

それから随分と経って2020年、世界中でコロナ禍が始まってクラシック業界も1度パッタリと活動を止めていた際、『ライヴ』を欲してYouTubeで演奏会の様子を配信しているオーケストラや歌劇場を探しまくっていた時に、偶然スペインのガリシア交響楽団が演奏しているのを見つけまして、一発で気に入りました。実力的にはヒューストン交響楽団と比べるとガリシア交響楽団は少し格落ちかも知れませんが、ヒグドンの作品を積極的に採り上げているらしいロバート・スパーノの手腕で素晴らしい演奏を見せています。

実力者揃いの京響が演奏したらさぞかし映えそうだなと期待したいところですが、この曲をプログラムに乗せてくれそうな指揮者がいるのかとなると・・・?何かの気まぐれで広上さんがやらなかったら、誰もやらなそうで・・・

ジョン・アダムズの『ハルモニーレーレ』ですら、下野さんが6年前に京響定期で振ったのが日本で3回目だったかな?後々になってベルリン・フィルがネット配信しているデジタル・コンサートで、作曲者自身がベルリン・フィルを指揮しているのを観ましたが(自作自演するタイプではなかったらしいジョン・アダムズが初めて指揮棒を振った演奏会だったらしい…それこそ指揮はド初心者で総譜を捲りながら拍子を正確に刻むのがやっとこさなアダムズをベルリン・フィルがサポートしながら良い演奏に仕上げていった印象)、格の大きな違いというのを改めて実感したものでした。

ヒグドンのオケコンは『ハルモニーレーレ』ほど難曲というわけでもなさそうなので、腕に自信のある日本のオケがどこかやらないかなぁ〜と思う次第です。

 


 

もう1つの注目盤、こちらは古典中の古典ですが、アダム・フィッシャー35年ぶりの再録音、円熟味が増した指揮者と、オーストリア・ハンガリー・ハイドン管弦楽団とはまったくタイプの異なるデンマーク室内管弦楽団の組み合わせ、意外な化学反応を起こしてて興味深い、かつ素晴らしい演奏になってます。こちらも超オススメ。

 

ハイドン:後期交響曲集Vol.1―交響曲第93・94・95番/アダム・フィッシャー&デンマーク室内管【NAXOS】

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
・交響曲第93番 ニ長調 Hob. I:93
・交響曲第94番 ト長調『驚愕』 Hob. I:94
・交響曲第95番 ハ短調 Hob. I:95

指揮:アダム・フィッシャー
管弦楽:デンマーク室内管弦楽団

録音時期:2022年9月2-6日・11月14日
録音場所:デンマーク、王立音楽アカデミー・コンサートホール

https://ml.naxos.jp/album/8.574516

【アダム・フィッシャー、ハイドンへ還る。後期交響曲の再録音がスタート!】
ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスの番号付きの全交響曲を録音した唯一の指揮者アダム・フィッシャー。デンマーク室内管弦楽団の首席指揮者就任から25年となる記念の年に彼が世に問うのはハイドンの後期交響曲シリーズの再録音です。
第1集はロンドン交響曲から人気作「驚愕」を含む3曲を収録。旧盤との違いも大きく、全編通じてエキサイティングかつ魅力的な音楽が展開し、今後への期待が大いに募ります。アダム・フィッシャーはハイドンの全交響曲を演奏するためにオーストリア・ハンガリー・ハイドン管弦楽団を組織し、ハイドンゆかりのエステルハージ宮で1987年から2001年にかけてNimbusレーベルに録音を行いました。それらは50人ほどに絞り込まれたオーケストラによる見通しの良いサウンドと、緩急のコントラストが利いた解釈、録音会場の音響を生かしたまろやかなサウンドが印象的に残るものです。
デンマーク室内管との再録音はそれらに比べると、更にシェイプアップ、テンポアップされており、ダイナミックスの切り替えやアクセントも鮮烈になっています。流れるようなスピード感のあるフレージングには古楽演奏の影響が聞き取れますが、オーケストラの伸縮自在な演奏ぶりからは、このスタイルが彼らのスタンダードとなっていることがうかがわれます。弓使いにも工夫を凝らし、通常よりも生き生きとした効果が得られるためのリコシェ(跳弓)などのテクニックを意図的に使っています。新旧比較で顕著な違いがあるのはメヌエット楽章で、恰幅の良い旧盤に対して新盤のステップの速さと滑らかさは別次元。他にも第93番の最終楽章は「これぞプレスト!」と快哉を叫びたくなる疾走感、第94番の第2楽章冒頭での無音かと思えるほどの再弱音から一転しての強烈な一撃はまさに「驚愕」。
原盤解説で「コンサートと同じようにレコーディングでも聴衆を魅了することを願っています」とアダム・フィッシャーが語るように、ライヴ感に満ちた演奏で、大注目のプロジェクトです。