今日は月半ばということでNMLにBISやChandosなどを筆頭に一挙に新しいアルバムが登録されましたが、その中でしとらす的に目についたのを挙げてみたいと思います。
まずは古楽メインのベルギーの老舗レーベルAccentから今月下旬にリリース予定の、1977年生まれのチェンバロ奏者ルカ・グリエルミ[http://lucaguglielmi.com/]によるヨハン・アドルフ・ハッセの鍵盤作品集です。
ハッセ:チェンバロ・ソナタ集/ルカ・グリエルミ(チェンバロ)【Accent】
ヨハン・アドルフ・ハッセ
・トッカータとフーガ ト短調
・トッカータ ト長調
・チェンバロ・ソナタ集『フランス王デルフィーナのためのファット』
ソナタ第1番 イ長調
ソナタ第2番 ト長調
ソナタ第3番 ヘ長調
ソナタ第4番 イ長調
・プレリュード 変ロ長調
・ソナタ ト長調
チェンバロ:ルカ・グリエルミ
録音時期:2011年5月9-10日
録音場所:イタリア・トリノ県コーリオ、ピアーノ・アウディ通り、サン・ベルナルディーノ教会
→http://ml.naxos.jp/album/ACC24255
ヨハン・アドルフ・ハッセ(1699年3月25日 – 1783年12月16日)は恥ずかしながら初めて目にした作曲家なので少しググってみましたが、ハンブルク近郊の生まれで、はじめはラインハルト・カイザーが指揮するオペラ劇団(ヘンデルも入れ違いで第2ヴァイオリン奏者として参加していたそうな)に参加するなどして経験を重ね、1723年に処女作の歌劇『アンティゴノス』が成功裡に終わったことで当時のブランシュヴァイク公の目に止まり、イタリアに留学させてもらえたのだそうな。
最初の滞在地ナポリではアレッサンドロ・スカルラッティと友誼を結び、次に向かったヴェネツィアでは当地で人気者だった女性オペラ歌手と結婚し、当時のザクセン選帝侯の引きでドレスデンに移って1763年まで定住。年金をもらって宮廷の仕事を引退した後はウィーンに移り、いくつかのオペラ作品を書いたりモーツァルトの作品の上演に接して彼の才能に高評価を与えるなどあったりで、晩年は奥さんの要望でヴェネツィアに定住して亡くなられたそうな。
ウィキペディアでシュターツカペレ・ドレスデンの項目を見ると、歴代のゼンパー・オーパー音楽総監督ならびにシュターツカペレ・ドレスデン首席指揮者の一覧の中に“1733–1763 ヨハン・アドルフ・ハッセ”の名前があり、ちょっとビックリしました。
生前はオペラで名声を得たと言えそうなハッセのチェンバロ・ソナタ集なのですが、楽譜が出版されることなく埋もれていた状態だったらしく、このアルバムが初CD化なのだそうです。一聴した印象ではあまりドイツっぽさを感じないというか、随所に見られる優しく明るい旋律や響きはイタリア各地での遊学の影響なのかな、という気がします。グリエルミの演奏も上品で丁寧なもので、ハッセのスコアをより引き立たせたものになっています。
グリエルミはジョルディ・サヴァールやイル・ジャルディーノ・アルモニコと共演したこともあり、これまでも彼のソロもしくは他の楽器奏者たちと組んでの室内楽作品がAccentやAlphaレーベルからいくつかリリースされています。中でも18世紀に活躍したヴェネツィアの作曲家バルダッサーレ・ガルッピが書いた鍵盤楽器のためのソナタを集めたアルバムは購入したファンからも高い評価を受けているようです。
★ガルッピ:鍵盤楽器のためのソナタ集/ルカ・グリエルミ(チェンバロ)【Accent】
バルダッサーレ・ガルッピ
1. ソナタ ニ長調
2. ソナタ 変ロ長調
3. ソナタ ホ短調 Op.2-3
4. ソナタ イ短調
5. ソナタ ハ短調 Illy No.38
6. ソナタ イ短調 Op.1-3
7. ソナタ ト長調 Illy No.29〜第1楽章:ラルゲット
8. ソナタ 変イ長調 Op.1-6
9. ソナタ ハ長調
演奏:ルカ・グリエルミ
使用楽器
・チェンバロ:ミヒャエル・ミートケ(1)、バルトロメオ・クリストフォリ(2,3)
・クラヴィコード:ヨハン・クリストフ・ゲオルク・シードマイヤー(4,5)
・オルガン:ジョヴァンニ・バティスタ&フランチェスコ・マリア・コンコーネ(6,7,8)
・フォルテピアノ:バルトロメオ・クリストフォリ(9)
録音時期:2009年9月12日
このアルバムの一番の売りはなんといっても5つの楽器を弾き分けていることでしょうか。グリエルミはどの楽器においても安定した高い技術を見せており、おかげで各楽器の多彩な響きと旋律による魅力をたっぷりと味わうことができます。
このアルバムに収録されているガルッピの作品は作曲年代が1750年前後から1781年頃までと幅が広く、使用楽器の違いと共に作風の違いも垣間見えますが、ベースにあるのはヴェネツィアらしい高雅で親しみやすい美しさと爽やかな雰囲気であり、ヘンデルやスカルラッティの鍵盤作品が好きな人にはガルッピのこのソナタ集もきっと合うのではないでしょうか。