今日付でNMLにまとめて登録されたChandos[http://www.chandos.net/]レーベルの8000〜9000番台のディスクの中の1つです。ホルストの作品なのですが、初めて見たタイトルの合唱曲でしたので、ヒコックスとロンドン響の演奏なら信頼できるかと思って試し聴きしてみたら、なかなかにユニークな音楽だったので採り上げることに。
★ホルスト:雲の使者、イエスの讃歌/リチャード・ヒコックス&ロンドン響、他【Chandos】
グスターヴ・ホルスト
・雲の使者 Op.30,H.111
・イエスの讃歌 Op.37,H.140
指揮:リチャード・ヒコックス
管弦楽:ロンドン交響楽団
合唱:ロンドン交響合唱団
メゾ・ソプラノ:デッラ・ジョーンズ(雲の使者)
録音時期:1990年6月4-5,9日
録音場所:ロンドン、バーネット特別区ハムステッド・ガーデン・サバーブ、セント・ジュード教会
→http://ml.naxos.jp/album/CHAN8901
上記のディスクは廃盤のようですし、ホルストの他の合唱曲とカップリングされた2枚組廉価盤がリリースされててリースナブルですし、購入を検討するなら下記に挙げるディスクの方が良いかと思います。
閑話休題。
『雲の使者』、インドの5世紀頃?の詩人・劇作家のカーリダーサの作による抒情詩『メーガ・ドゥータ(雲の使者)』を英訳したものをテキストにした作品だそうで、詩の大雑把な内容はWikiによれば
ヤクシャ(夜叉)の男が空を眺めつつ、ヒマラヤ山麓の故郷に残してきた最愛の妻へ、中部インドから故郷に向かって流れる雲に音信を託して語ったもの。この雲の使者が妻のもとに達するまでに通過する山河や町といった各地の情景を美しく描写している。
とありました。ホルストは30代の一時期にサンスクリット文学にハマったことがあったらしく、それでこうした曲を書いたようなのですが、残念ながら初演の評判は芳しくなくて本人はいたく落ちこんだとかなんとか(苦笑)。
この2年後に『惑星』の作曲に着手するわけですが、現在ではポピュラーになってる『惑星』よりも『雲の使者』の方がよほど神秘的な音楽だと思います。欧州人が抱くであろうオリエンタリズムに満ちたエキゾシズムさがとても印象的です。あいにく私には英語のヒアリング能力がないので歌詞が聞き取れないのが残念なのですが、音を聴いてるだけでも不思議な感覚にとらわれます。特に後半部分で壮大かつ神々しいクライマックスが築かれて聴き手に大きなインパクトを残してからの長い静かな音楽は瞑想に浸っているかのようにも感じます。
そして、もう1曲の『イエスの讃歌』は『惑星』が当初のピアノ・デュオ(「海王星」以外の6曲)とオルガン(海王星)のために作曲されたものから大規模な管弦楽用にオーケストレーションを施していたのとほぼ同じ時期に書かれたようです。時代はまだ第一次世界大戦の真っ最中、そんな時期にキリストを讃える音楽を、しかもテキストにしたのが聖書正典からでなく、わざわざ新約聖書外典の「ヨハネ行伝」から持ってきたホルストの心境など知る由もありません。
ただ、5分半ほどの前奏曲に続いて主部の“The Hymn(讃歌)”が置かれているこの曲、強いて言えば‘静’の前奏曲に‘動’の“The Hymn”といった趣きといったところなのでしょうけど、その‘動’の部分が半端なく荘厳でドラマティックな音楽ですし、『惑星』の「火星」や「木星」をはるかに凌駕する迫力と神秘性を感じます。エンディングで消え入るように音楽が閉じられるのがまた何とも言い様のないミステリアスな響きがします。
演奏はオケ、合唱とも素晴らしくハイレベルです。しかも他に録音がソコソコ残されている『イエスの讃歌』はともかく、『雲の使者』に関してはこれが初録音だったかな?今後も酔狂なプロジェクトが出てこないかぎりは演奏機会なんてそうそう無いでしょうから、希少性で見ても価値ある録音ではないでしょうか。
ところで、先程でも述べましたが、上記のディスクはすでに廃盤になってますし、現在では『雲の使者』と『イエスの讃歌』の2曲を含めたホルストの合唱曲集が格安の2枚組CDでリリースされていますので、興味を惹かれた方はこちらをご購入いただくと良いかと思います。
全部で10曲収録されていますが、ホルストが20歳そこそこで書いたもの(作品番号どころかH番号すら振られていない『4つのパートソング』)から50代半ばの晩年期に書かれた合唱幻想曲まで、曲の規模や編成、作風がもう様々です。こういうのを録音してリリースするのってChandosならではという気がします。
★ホルスト:合唱曲集/リチャード・ヒコックス&ロンドン響、他(2CD)【Chandos】
グスターヴ・ホルスト
1. 雲の使者 Op.30,H.111
2. イエスの讃歌 Op.37,H.140
3. アヴェ・マリア Op.9b,H.49
4. 2つのモテット〜イヴニング・ウォッチ Op.43-1,H.159
5. 7つのパートソング Op.44,H.162
6. 合唱幻想曲 Op.51,H.177
7. 2人の老兵のための哀歌 H.121
8. 死への頌歌 Op.38,H.144
9. This have I done for my true love(これが我が真実の愛のためにしたこと) Op.34-1,H.128
10. 4つのパートソング(1894〜1896年作)
指揮:リチャード・ヒコックス(1,2,5,6,7,8)、ポール・スパイサー(3,4,9,10)
管弦楽:ロンドン交響楽団(1,2)、シティ・オブ・ロンドン・シンフォニア(5,6,7,8)
合唱:ロンドン交響合唱団(1,2,8)、ジョイフル・カンパニー・オブ・シンガーズ(5,6,7)、フィンジ・シンガーズ(3,4,9,10)
ソプラノ:パトリシア・ロザリオ(5,6)、レイチェル・ウィートリー(9)
メソ・ソプラノ:デッラ・ジョーンズ(1)
アルト:スザンナ・スパイサー(4)
テノール:マーク・ミルホファー(4)
→http://ml.naxos.jp/album/CHAN241-6