今年はワーグナーとヴェルディ2人のオペラ作曲家の生誕200年というメモリアルイヤーですけど、NMLに今日付で「今週の一枚」として登録されたのがヒコックス盤のヴェルレク。
録音自体はもう十数年も前のものですが、ロッシーニの『スターバト・マーテル』等で合唱曲におけるヒコックスの手腕はこの手の音楽にあまり縁のない私でも一応経験済みですので、早速聴いてみることにしました。
★ヴェルディ:レクイエム/リチャード・ヒコックス&ロンドン響、他【Chandos】
ジュゼッペ・ヴェルディ
・レクイエム
指揮:リチャード・ヒコックス
管弦楽:ロンドン交響楽団
合唱:ロンドン交響合唱団
合唱指揮:ステファン・ウェストロップ
ソプラノ:ミシェル・クライダー
メゾ・ソプラノ:マルケラ・ハツィアーノ
テノール:ガブリエル・シャーデ
バス:ロバート・ロイド
録音時期:1995年7月10-12,14-15日
録音場所:トゥーティング、オール・セインツ教会
→http://ml.naxos.jp/album/CHAN9490
1度聴いてまず実感したのが、宗教音楽でコーラスのレベルが演奏全体をいかに左右するかという事。フォルティッシモ時の濁り無きフルボリュームによる迫力だけでなく弱音時の崇高な美しさは感動的です。
ソリストの歌唱がイマイチっぽく感じるところが所々で無きにしもあらずなのですが、それを打ち消して余りある合唱の素晴らしさです。
それと同時に凄いと思ったのが、輝かしいまでに華麗なブラスセクションの音色。どんなに鳴らしても煩く感じない格調の高さはさすがロンドン響といったところです。
そして、それら優秀なオケとコーラスをコントロールして、かくも気高き“レクイエム”の演奏を引き出したヒコックスのタクトさばきは見事と言う他なく、とても素晴らしい音楽作りになっていると思います。
一時の勢いやドラマティックな部分に引っ張られることなく全体と細部の各声部のバランスがとれていて、丁寧で美しい仕上がりになっているのにはとても好感が持てますし、Chandosの録音の優秀さが演奏の素晴らしさを一層引き立たせています。
ところで、NMLにはもう1つ、ロンドン響によるヴェルレクの超名演が登録されています。このオケの自主レーベルからリリースされている、サー・コリンの指揮によるライヴ録音です。
★ヴェルディ:レクイエム/コリン・デイヴィス&ロンドン響、他【LSO Live】(2枚組)[Hybrid SACD]
ジュゼッペ・ヴェルディ
・レクイエム
指揮:コリン・デイヴィス
管弦楽:ロンドン交響楽団
合唱:ロンドン交響合唱団
合唱指揮:ジョセフ・カレン
ソプラノ:クリスティーネ・ブリューワー
メゾ・ソプラノ:カレン・カーギル
テノール:スチュアート・ネイル
バス:ジョン・レリア
録音時期:2009年1月11,14日(ライヴ)
録音場所:ロンドン、バービカンセンター
→http://ml.naxos.jp/album/LSO0683
このライヴ、どうやら2008年11月23日に急逝したヒコックスの追悼演奏会でもあったようで、円熟味溢れる深遠な雰囲気の中にも鬼気迫るものを感じるのはそのせいでしょうか?
ヒコックスとこのオケに縁があっただけでなく、ヒコックスはサー・コリンに師事していたことがあったそうで、ふた回り歳下の教え子に先立たれた彼の心中は如何ほどだったかと想像すると、どうにも辛いものを感じます。
大いなる愛情を込めつつも終始一貫して厳かに奏でられる音楽は、天に召された故人に捧げられた正しく“レクイエム”ではないでしょうか。
とかく劇的でオペラティックな演奏になりがちなヴェルレクですけど、ヒコックス盤といいサー・コリンのライヴ盤といい、この曲が紛れもなく宗教音楽であり、なおかつ故人の安息を神に願うための音楽であることを各々なりに実感させてくれる演奏だと思います。