武満徹:『波の盆』『乱』、細川俊夫:記憶の海へ、尾高惇忠:オルガンと管弦楽のための幻想曲/尾高忠明&札幌交響楽団

NMLに
『夏休み特集 – 「海」を聴く』
と題したプレイリストのページができてまして、どうせドビュッシーの『海』の聴き比べだろうとタカを括って見てみたところ、大勢の作曲家による“海”を題材にした作品が並べられていて驚きました。このリストには日本を代表する現役の作曲家の細川俊夫さんの作品が2つ入ってまして、逆引きみたいな感じでこのプレイリストにはない細川作品をNMLで検索していたところ、Chandos[http://www.chandos.net/]レーベルに尾高忠明さんと札幌交響楽団[http://www.sso.or.jp/]のコンビが録音した邦人作曲家の作品集のディスクを見つけ、聴いてみた次第です。

 

武満徹:『波の盆』『乱』、細川俊夫:記憶の海へ、尾高惇忠:オルガンとオーケストラのための幻想曲
 /尾高忠明&札幌交響楽団
【Chandos】
尾高惇忠
・オルガンとオーケストラのための幻想曲[※世界初録音]
武満徹
・波の盆
・乱
細川俊夫
・記憶の海へ〜ヒロシマ・シンフォニー〜[※世界初録音]
指揮:尾高忠明
管弦楽:札幌交響楽団
オルガン:ブライアン・アシュレー
録音時期:2000年5月8-11日
録音場所:札幌コンサートホールKitara
http://ml.naxos.jp/album/CHAN9876
Chan9876

 

日本屈指の音響を誇る札幌コンサートホールKitara[http://www.kitara-sapporo.or.jp/]でのセッション録音という点を割り引いても、地方オケを侮るなかれ、札響は巧いと素直に感心しましたし、武満さんを筆頭とする邦人作曲家の作品の演奏にも慣れている印象を受けました。シェフが岩城さん、秋山さん、尾高さんと続いて彼らの薫陶を受けたからでしょうね。(ウェールズ時代からの尾高さんとの付き合いというだけで無しに)Chandosレーベルのスタッフが札幌まで出向いてきただけのことはあるように思いました。しかも世界初録音が2曲というオマケ付き(笑)。

その世界初録音の1つ、尾高惇忠さんの作品はオルガンの大伽藍サウンドにまずは圧倒されますが、聴いていくうちにサン=サーンスの3番シンフォニーのような色の重ね塗りのような響きではなく、彩色違いの絹糸を何本も撚りあわせた線画で描いたような独特のファンタスティックな音楽であることに気付かされます。こういったところは日本人ならではの感性なんでしょうか。

もう1つの世界初録音の細川作品は広島交響楽団[http://hirokyo.or.jp/]のプロ化25周年記念に作曲されて世界初演も広響が行ったそうですが、細川さんの生まれ故郷でもある広島の名がサブタイトルに付せられているとはいえ、『ヒロシマ・声なき声』(ヒロシマ・レクィエム)のような原爆を関連付けたものではないそうですし、実際に出てくる音楽からもそうした暗さとは無縁のように感じました。
全体的に茫洋とした雰囲気ですが、微細に見ていくと1つ1つの音がとても繊細で緻密に織りあわせてあるような印象です。札響が慣れていると思ったのはこうしたところをしっかりと表現できている事にも表れています(随分前に大野さんが大フィルの定期に初客演した際に前半で細川作品を採り上げていましたが、あの時はオケ側が曲にも大野さんの棒にもついていけてないのが丸わかりでしたっけ・・・苦笑)。

そして2曲の世界初録音作品に挟まれた武満さんの曲は『波の盆』が30年前に放映された同名のテレビドラマの主題曲で、もう1つは黒澤映画『乱』の音楽から組曲化された作品です。
武満さんの代表作として『ノヴェンバー・ステップス』がよく挙げられますが、現代音楽が苦手な人、もしくはクラシック音楽自体にあまり縁のない人が武満作品に手を付けるなら、有名な『ノヴェンバー・ステップス』よりも『波の盆』の方がずっと入りやすく、かつ武満世界の一端に馴染みやすいのではないでしょうか。
日本のテレビドラマの主題曲らしい日本人への親しみやすさを持ちながらも、そこには武満さん独特の世界観もしっかりと刻み込まれてます。涙腺の弛い状態で聴いたら、ちょっと泣けてくるかもです。
『乱』は黒澤明監督と武満さんが以後決定的に袂を分かった曰く付きの作品ですが、対立点の1つが音楽をどのオケに演奏させるかだったそうで、ロンドン響の起用を主張した黒澤監督に対して武満さんが反対して、彼と盟友の岩城さんが当時音楽監督を務めていた札響が演奏を担当することになり、はじめは無名のオケに不満タラタラだったらしい黒澤監督も実際に演奏を聴いてからは深々と頭を下げる他なかったというエピソードがあるそうです。
いわば札響の誇りでもある『乱』の演奏は映画公開から15年経ってもDNAがしっかり受け継がれていることを証明した素晴らしいものとなっているように感じました。