ロッシーニのオペラ39作品、少ないページにまとめようとすると長くなり過ぎそうなので、結局ページを4分割にしました。
これでお終い。
壮大なオペラ・セリア『セミラーミデ』、この作品がロッシーニにとってイタリアで作曲した最後のオペラとなりました。
作曲依頼と初演(依頼は1822年後半、初演1823年2月3日)はヴェネツィアのフェニーチェ劇場。
その初演の地で2018年10月に上演された際の映像がYouTubeの公式チャンネルに上がっています。
無料でクオリティの高い演奏を観れるのは良い事ですが、さりとてストリーミングでは画質・音質ともに限界があるので、Blu-ray化してくれへんかな〜思う今日この頃。
(2019年8月のペーザロ音楽祭での上演でもいいですが)
この後イタリアに見切りをつけて他国での活動を求め、いろんな経緯がありつつも1824年の秋頃から1830年代半ばまでパリを拠点とするようになりました。
『ランスへの旅』から『ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)』まで、ロッシーニ最後の5作品は全てパリ初演、しかも『ランスへの旅』以外の4作品は全てフランス語オペラです。
★ロッシーニ:歌劇『ランスへの旅』/アントニーノ・フォリアーニ&ヴィルトゥオージ・ブルネンシス、他【NAXOS】(3CD)
ジョアキーノ・ロッシーニ
・歌劇『ランスへの旅』
指揮:アントニーノ・フォリアーニ
管弦楽:ヴィルトゥオージ・ブルネンシス
合唱:ポズナン・カメラータ・バッハ合唱団
コリンナ(ソプラノ):ラウラ・ジョルダーノ
メリベーア侯爵夫人 (アルト):マリアンナ・ピッツォラート
フォルヴィル伯爵夫人(ソプラノ):ソフィア・ムチェドリシヴィリ
コルテーゼ夫人 (ソプラノ):アレッサンドラ・マリアネッリ
騎士ベルフィオール(テノール):ボグダン・ミハイ
リーベンスコフ伯爵(テノール):マキシム・ミロノフ
シドニー卿(バス):ミルコ・パラッツィ
ドン・プロフォンド(バス):ブルーノ・デ・シモーネ
トロンボノク男爵(バス):ブルーノ・プラティコ
ドン・アルヴァーロ(バス):ゲジム・ミシュケタ
ドン・プルデンツィオ(バス):バウルジャン・アンデルジャノフ
ドン・ルィジーノ(テノール):カルロス・カルドーゾ
デリア(ソプラノ):ギオマール・カント
マッダレーナ(メゾ・ソプラノ):オレスヤ・ベルマン・チュプリノヴァ
モデスティーナ(メゾ・ソプラノ):アンナリーザ・ダゴスト
ゼフィリーノ(テノール):アルタヴァスト・サルキシャン
アントニオ(バス):ルーカス・ソモサ・オステルク
ジェルソミーノ(テノール):渡辺康
録音時期:2014年7月8・10・12日(第26回ロッシーニ・イン・ヴィルトバート、ライヴ)
録音場所:バート・ヴィルトバート、王立クル劇場
→https://ml.naxos.jp/album/8.660382-84
【これ聴いてます】ロッシーニ:歌劇『ランスへの旅』(3CD)
アントニーノ・フォリアーニ指揮ヴィルトゥオージ・ブルネンシス、ポズナン・カメラータ・バッハ合唱団、[S]ラウラ・ジョルダーノ、他
※2014年7月ヴィルトバード音楽祭ライヴhttps://t.co/kqOQTOIMmb #nmlhttps://t.co/XdfcJontPN— しとらす@京都🇺🇦🇵🇸🇹🇼 (@citrus_kyoto) February 16, 2025
★ロッシーニ:歌劇『コリントの包囲』/ジャン=リュック・タンゴー&ヴィルトゥオージ・ブルネンシス、他【NAXOS】(2CD)
ジョアキーノ・ロッシーニ
・歌劇『コリントの包囲』
指揮:ジャン=リュック・タンゴー
管弦楽:ヴィルトゥオージ・ブルネンシス
合唱:ポズナン・カメラータ・バッハ合唱団
マオメ2世(バス):ロレンツォ・レガッツォ
クレオメーヌ(テノール):マルク・サラ
パミラ(ソプラノ):マジェラ・カラーフ
ネオクレス(テノール):マイケル・スパイアーズ
イエロス(バス):マチュー・レクロアール
アドラスト(テノール):グスタボ・クアレスマ・ラモス
オマール(バリトン):マルコ・フィリッポ・ロマーノ
イスメーヌ(メゾ・ソプラノ):シルヴィア・ベルトラーミ
録音時期:2010年7月18・20・23日(第22回ロッシーニ・イン・ヴィルトバート・ライヴ)
録音場所:バート・ヴィルトバート、トゥリンクハレ
→https://ml.naxos.jp/album/8.660329-30
【これ聴いてます】ロッシーニ:歌劇『コリントの包囲』(2CD)
ジャン=リュック・タンゴー指揮ヴィルトゥオージ・ブルネンシス、ポズナン・カメラータ・バッハ合唱団、[Bs]ロレンツォ・レガッツォ、他
※2010年7月ヴィルトバード音楽祭ライヴhttps://t.co/lWSNhG9KHL #nmlhttps://t.co/LhkaIwgKQ2— しとらす@京都🇺🇦🇵🇸🇹🇼 (@citrus_kyoto) February 16, 2025
★ロッシーニ:歌劇『モイーズ』/ファブリツィオ・マリア・カルミナーティ&ヴィルトゥオージ・ブルネンシス、他【NAXOS】(3CD)
ジョアキーノ・ロッシーニ
・歌劇『モイーズ』
指揮:ファブリツィオ・マリア・カルミナーティ
管弦楽:ヴィルトゥオージ・ブルネンシス
合唱:グレツキ室内合唱団
モイーズ(バス):アレクセイ・ビルクス
ファラオン(バス):ルカ・ダッラーミコ
アメノフィス(テノール):ランドール・ビルズ
エリエゼル(テノール):パトリック・カボンゴ
オジリド(バス):バウルジャン・アンデルジャノフ
オフィド(テノール):シュー・シャン
シナイド(ソプラノ):シルヴィア・ダッラ・ベネッタ
アナイ(ソプラノ):エリザ・バルボ
マリー(メゾ・ソプラノ):アルバーヌ・カレール
録音時期:2018年7月19・25・28日(第30回ロッシーニ・イン・ヴィルトバート開催中での収録)
録音場所:バート・ヴィルトバート、トゥリンクハレ
→https://ml.naxos.jp/album/8.660473-75
【これ聴いてます】ロッシーニ:歌劇『モイーズ』(3CD)
ファブリツィオ・マリア・カルミナーティ指揮ヴィルトゥオージ・ブルネンシス、グレツキ室内合唱団、[モイーズ:Bs]アレクセイ・ビルクス、他
※2018年7月ヴィルトバード音楽祭ライヴhttps://t.co/7QVkz0tbU0 #nmlhttps://t.co/M5ekX6qzly— しとらす@京都🇺🇦🇵🇸🇹🇼 (@citrus_kyoto) February 16, 2025
★ロッシーニ:歌劇『オリー伯爵』/ブラッド・コーエン&チェコ室内楽ソロイスツ、他【NAXOS】(2CD)
ジョアキーノ・ロッシーニ
・歌劇『オリー伯爵』
指揮:ブラッド・コーエン
管弦楽:ブルノ・チェコ室内楽ソロイスツ
合唱:ブルノ・チェコ・フィルハーモニック合唱団
オリー伯爵(テノール):ヒュー・リース=エヴァンス
ランボー(バリトン):ルカ・サルシ
教育係(バス):ヴォチェク・ギールラッハ
フォルムティエの伯爵夫人(ソプラノ):リンダ・ジェラード
ラゴンド(メゾ・ソプラノ):グローリア・モンタナーリ
イゾリエ(メゾ・ソプラノ):ルイザ・イスラム=アリ=ザデ
アリス(ソプラノ):ソフィア・ソロヴィ
録音時期:2002年7月12・16・19日(ヴィルトバート音楽祭ライヴ)
録音場所:バート・ヴィルトバート、クルザール
→https://ml.naxos.jp/album/8.660207-08
【これ聴いてます】ロッシーニ:歌劇『オリー伯爵』(2CD)
ブラッド・コーエン指揮チェコ室内楽ソロイスツ、チェコ・フィルハーモニック合唱団、[オリー伯爵:T]ヒュー・リース=エヴァンス、他
※2002年7月ヴィルトバード音楽祭ライヴhttps://t.co/wRqtykjsOU #nmlhttps://t.co/ntt0VBmvcL— しとらす@京都🇺🇦🇵🇸🇹🇼 (@citrus_kyoto) February 16, 2025
★ロッシーニ:歌劇『ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)』/アントニーノ・フォリアーニ&ヴィルトゥオージ・ブルネンシス、他【NAXOS】(4CD)
ジョアキーノ・ロッシーニ
・歌劇『ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)』
指揮:アントニーノ・フォリアーニ
管弦楽:ヴィルトゥオージ・ブルネンシス
合唱:ポズナン・カメラータ・バッハ合唱団
ギヨーム・テル(バリトン):アンドリュー・フォスター=ウィリアムズ
アルノール・メルクタール(テノール):マイケル・スパイアーズ
ヴァルテル・フュルスト、アルノールの父メルクタール(バス):ナウエル・ディ・ピエロ
ジェミ(ソプラノ):タラ・スタッフォード
ゲスレル(バス):ラファエーレ・ファッチョラ
ロドルフ(テノール):ジュリオ・ペッリグラ
リュオディ(テノール):アルタヴァスト・サルキシャン
ルートルド、狩人(バス):マルコ・フィリッポ・ロマーノ
マティルド(ソプラノ):ジュディス・ハワース
エドヴィージュ(メゾ・ソプラノ):アレッサンドラ・ヴォルペ
録音時期:2013年7月13・16・18日(第25回ロッシーニ・イン・ヴィルトバート・ライヴ)
録音場所:バート・ヴィルトバート、トゥリンクハレ
→https://ml.naxos.jp/album/8.660363-66
【これ聴いてます】ロッシーニ:歌劇『ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)』[DVD]
アントニーノ・フォリアーニ指揮ヴィルトゥオージ・ブルネンシス、ポズナン・カメラータ・バッハ合唱団、他
※2013年7月ヴィルトバード音楽祭ライヴ、CDと同じhttps://t.co/CdYIZYDd2H #nmlhttps://t.co/hgzJmM2cIY— しとらす@京都🇺🇦🇵🇸🇹🇼 (@citrus_kyoto) February 16, 2025
ロッシーニ自身は1829年初演の『ギヨーム・テル』を最後にオペラの筆を折ることなど考えていたわけではなく、それどころか『ギヨーム・テル』を手始めに長期の新作契約を当時のフランス王家(ブルボン朝シャルル10世)と結んでいたそうですが、翌1830年夏にパリで七月革命が勃発し、シャルル10世は廃位させられてイギリスに亡命する事態にまで発展します。
このフランスの政変で、ロッシーニはフランス新政府を相手に終身年金の維持こそ確保した(終身年金の継続支払を求めて訴訟→勝訴)ものの、他の大型契約は言わずもがな(旧王朝との契約を新政府は無効と扱ったため)。1836年、パリを出てボローニャに移住。途中ミラノやフィレンツェへ一時的に移ることはあっても、1855年に病気治療でパリに再移住するまでボローニャで趣味の料理に情熱を注ぎつつ悠々自適な隠居生活(“ボローニャの海原雄山”と称されるほど)を送ったようです。この間に作曲されたのが1842年1月にパリで初演された『スターバト・マーテル』、2ヶ月後の同年3月にはボローニャでドニゼッティの指揮によりイタリア初演が行われています。
1855年にパリへ再び移り、健康が回復してからは最晩年に大病を患って逝去するまで毎週土曜日に自宅サロンとして演奏会を開催していたり、若い頃のサン=サーンスやビゼーらを導いて世に送り出す傍らで、ピアノ曲を中心に声楽曲などの小品を数多く作曲して『老いの過ち』として編纂するようになります。『老いの過ち』のピアノ曲は全集としてまとまったものが近年アレッサンドロ・マランゴーニのピアノ演奏でNAXOSレーベルからリリースされましたが、18歳でデビューしてから『ギヨーム・テル』を初演するまでオペラ作曲家として欧州を席巻していた御仁が、別人のように作風を変えて以前とは異なる洗練さを随所に覗かせ味わい深いです。
[Amazon]
37歳にしてオペラ作曲から引退したのは、事実上のパトロンといえるシャルル10世が七月革命により失脚し、フランス政界がガラッと一変してしまったのが最大の要因でしょうか。新王ルイ・フィリップを戴く新政権の指針はシャルル10世治世の全否定に近く、シャルル10世から多額の終身年金と長期の新作契約を得ていたロッシーニが新政権を相手に両方を維持するのは非常に困難だったと推察できます。終身年金だけでも満額保証を獲得したのは現代人の感覚でも凄いと思えますし、代償としてパリ・オペラ座などとの結びつきを絶たれてオペラ新作発表の場を失ったのも仕方なかったでしょう(飢えるより遥かにマシ)。
1830年代の事情といえば、ベッリーニやドニゼッティのようにヴェネツィアとナポリ、次いでスカラ座の台頭が定着してきたミラノの3都市いずれかで立身出世したオペラ作曲家が、創作の自由(ヴェネツィアとミラノはハプスブルク家、ナポリはブルボン家の支配下にあって何かと検閲が厳しかったり聴衆が保守的に過ぎたりしていた)と更なる成功を求めてパリに出ていくご時世で、パリで大成功を収めながらも政変で活動の場を失ったロッシーニが、ヴェネツィアやナポリやミラノに出戻るなど(余程日頃の生活に困窮しているとかでなければ)ありえなかったのでしょう。ボローニャ在住中も趣味の料理に打ち込む他は自宅でサロンを催すか音楽教育活動するか、がほとんどのようでしたし。
そしてパリにしても『ギヨーム・テル』とオベール『ポルティチの唖娘』を嚆矢として“グラントペラ grand opéra”の時代が黄金期の幕を開け始めるようになり、ロッシーニが俗世権力を相手に心身を削っている傍らで、マイアベーア『悪魔のロベール』『ユグノー教徒』、アレヴィ『ユダヤの女』と大ヒット作が次々と上演されていました。そしてこの様式が峠を迎えて過ぎようとした頃にはワーグナーとヴェルディの時代がやって来た・・・ベルカントの喪失を嘆くロッシーニにしてみれば、オペラ界隈で自身の居場所がなくなったことを敏感に感じ取って、時代に抗う意欲も必要性も持てなくなったのかもしれません。欧州の政界もウィーン体制の崩壊で、フランスでは共和政と帝政が短期間で入れ替わり、イタリアではオーストリア帝国に対するイタリア統一戦争が起こり、ドイツでは宰相ビスマルクがプロイセンを牽引してドイツ統一へ進み始めていた時代です。
政治も経済も何もかもが移り変わる・・・その1点に関しては21世紀の今も2世紀昔の19世紀も似たようなものかもしれません。しかし、著作権や(音楽面での)記録といった概念が現代に比べて200年前では非常に曖昧で脆く、1830年にオペラ界から引退したロッシーニの作品が劇場のレパートリーから外されていくのも早ければ、楽譜(総譜・パート譜…etc.)の散逸・喪失も早かったようです(当の本人が趣味の料理と同じくらい自身の作品の楽譜管理を熱心にしてくれていれば良かったのにと思わなくもない)。
私が生まれた頃にロッシーニ・ルネッサンスが勃興し、半世紀以上が過ぎた今ではインターネットが繋がりさえすれば気軽にロッシーニのオペラを鑑賞できる便利でありがたい時代になりましたが、日本語情報だけでもロッシーニの解説や分析を読むにつけ、残された僅かな手掛かりからオペラ上演に漕ぎつけるまで楽譜を復元してきた関係者の皆さんに頭が下がる思いで溢れてきます。“古楽”の分野でもそうですが、クラシック音楽における考古学の地道な努力と成果には本当に感謝と敬意しかありません。