リスト:『巡礼の年』全曲/ベルトラン・シャマユ(ピアノ)

フランスはナンスを発祥とするクラシックの一大イベント『ラ・フォル・ジュルネ』。
日本でも2005年の東京を皮切りにいくつかの都市で開催されるようになりましたが、日本では開催時期がゴールデンウィークに設定されているので、すっかり春の風物詩となった感がありますね。
今年の専用サイトも開設され、NMLでも一昨日3月11日から「聴けるプログラム」として特集ページが組まれています。
 →ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン<熱狂の日>音楽祭 http://www.lfj.jp/lfj_2013/

 

さて、今年のテーマは満を持しての盛大なフランスお国自慢「パリ、至福の時」だそうで、日本語版公式サイトに書かれてあった由来には

タイトルの「至福の時」L’heure exquise(ルール・エクスキーズ)は、19世紀後半のパリを代表する詩人ポール・ヴェルレーヌの詩「白い月」の最後のフレーズから、ルネ・マルタンが引用したものです。作曲家のフォーレやアーンはこの詩に音楽を付け、歌曲にもなっています。
19世紀から20世紀にかけて、パリは世界の芸術の首都としてさまざまなジャンルの芸術家が集い、交流し、素晴らしい作品の数々が生まれましたが、L’heure exquiseという言葉をテーマタイトルに引用することによって、ルネ・マルタンは芸術家たちにとって至福の時代であった頃のパリを再現しようとしたのです。

とありました。
おそらくは「19世紀から20世紀にかけて、パリは世界の芸術の首都としてさまざまなジャンルの芸術家が集い」とあるのがミソで、フランスの作曲家だけでなくパリで活動していた時期もあったスペインの作曲家のアルベニスやファリャまで引っ張り出しています。
道理で出演者の中に村治佳織さんや荘村清志さん、大萩康司さんに鈴木大介さんといったギタリストの名前が多いと思ったら、そういうことだったので、と。

それにしてもスペインのアルベニスとファリャを巻き込むとは図々しい(苦笑)というか、まるで「ワシが育てた」とでも言いたげな感じでフランスの悪い面(一種の傲慢さ)が垣間見えるというか・・・(以下略)。

まぁせっかくNMLでも特集ページが組まれましたし、私自身もフランス音楽は好きな方なので(というかクラシックに嵌るキッカケがラヴェルだった)、今回の東京での公演に出演する演奏者や採り上げられる作曲家など、NMLのカタログの中で適当に目星をつけたディスクをチョイスして時々採り上げてみることにしました。

まずは、5月3・4日にオケとの共演やソロリサイタルで出演する1981年トゥールーズ生まれのフランス人ピアニスト、ベルトラン・シャマユ(Bertrand Chamayou)がNaïve[http://www.naive.fr/]レーベルに録音した現時点での最新盤から。

 

リスト:『巡礼の年』全曲/ベルトラン・シャマユ(ピアノ)(3CD)【Naïve】

CD1
フランツ・リスト
・巡礼の年 第1年『スイス』 S.160
 ウィリアム・テルの聖堂
 ワレンシュタット湖畔で
 田園曲
 泉のほとりで
 夕立
 オーベルマンの谷
 牧歌
 郷愁
 ジュネーヴの鐘
CD2
フランツ・リスト
・巡礼の年 第2年『イタリア』 S.161
 婚礼
 物思いに沈む人
 サルヴァトール・ローザのカンツォネッタ
 ペトラルカのソネット第47番
 ペトラルカのソネット第104番
 ペトラルカのソネット第123番
 ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」
・巡礼の年 第2年補遺『ヴェネツィアとナポリ』 S.162
 ゴンドラを漕ぐ女
 カンツォーネ
 タランテッラ
CD3
フランツ・リスト
・巡礼の年 第3年 S.163
 アンジェルス!守護天使への祈り
 エステ荘の糸杉にI:哀歌
 エステ荘の糸杉にII:哀歌
 エステ荘の噴水
 ものみな涙あり−ハンガリー風に
 葬送行進曲
 心を高めよ

ピアノ:ベルトラン・シャマユ
録音時期:2011年3月、6月、7月
録音場所:フランス、ポワティエ
http://ml.naxos.jp/album/V5260
V5260

 

このアルバムが録音されたのはリストの生誕200周年アニヴァーサリー・イヤーであると同時に演奏者自身も30歳という節目の年を迎えた時期ですけど、己の持てる技術と音の品質を全て洗練された自然美の構築と描写に注ぎ込んだ感のある演奏で、個々の曲の作曲年代がバラバラで作風の傾向も異なる『巡礼の年』3集を、まるで元から1巻の絵巻物として存在していたかのように作り上げたかのようです。
各曲の個性を消すのではなくそれぞれ細部まで丁寧な表現を見せながらも全曲を一通り聴くとまことに流麗で一切の不自然さを感じさせない見事さです。
例えば「ソナタ風幻想曲『ダンテを読んで』」。
ヴィルトゥオーソ的要素を発揮させがちなこの曲において力みがまるで無く軽々と弾いているようにすら見えますが、スケール感とダイナミズムはそのままにフォルテの音色が透明でかつズシッと質感もあり、それが前後の曲から浮き出ることなく迫力と存在感を誇示することに成功していると思われます。
「エステ荘の噴水」においても美しい音色で印象派のような幻想的な情景を描き出していますし、他の曲についても語りだすとキリがないのでしょうが、それでも全曲でCD3枚分ある『巡礼の年』を時間の経過を忘れてしまうほど明瞭でスムーズな流れで(聴き手に疲労感を与えることなく)聴き通せてしまうのはまことに不思議です。
今回の東京でのラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンではサン=サーンスやドビュッシーなどを採り上げるようですが、時間とお金に余裕のあるピアノ好きの方は、ぜひ行かれてみてはいかがでしょうか?