ロシアの偵察衛星の現状について。
8年前のクリミア侵略の時から半導体関連の制裁がはじまってて、今年はウクライナにカチコミしたせいで更に制裁が強化されたので、まぁこうなるわな、と。
ロシアの偵察衛星は、解像度33センチのペルソナ(Персона:人)衛星のうち生きているのが1機、怪しいのが1機、後はロシア版ALOSのバー(Барс)Mが解像度1.1mで3機、デュアルユースで解像度2.1mのカノープス(Канопус)Vが6機という構成が現状です。
— mizuki_tohru (@mizuki_tohru) August 1, 2022
生きているペルソナ衛星も2015年打ち上げで設計寿命7年、兄弟たちが故障続きだったことを考えるとあまり長生きしそうにありません。デュアルユースで解像度が0.7mあったレスールス(Ресурс:資源)-P衛星は今年春に最後の1機が死んでいます。
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ペルソナ衛星の運用高度は700kmと高く、低軌道に降りて電気推進で高度を維持する低軌道撮像モードを持っている可能性がありますが、試されていません。どちらにせよ推進剤は既に枯渇しているでしょう。
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ペルソナ衛星の直径1.5mのミラーはソ連時代に作られた3個を流用したもので、将来型であるラズダン(Раздан)衛星では直径2.35mのミラーが採用されることになっています。これはアメリカのKH-11に匹敵する規模ですが、ソユーズ2で打ち上げられる大きさという縛りがあります。
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ラズダン衛星の開発は順調に遅延していますが、ラズダン開発遅延の繋ぎと噂されたEMKA衛星の3機目が動作しないダミーだったことを受けて、宇宙用半導体の調達困難の影響は思ったよりも大きい可能性が示唆されています。
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解像度0.6m重量450kgのEMKA衛星は先行2機が短期間で死んでおり、あまり長い寿命は期待できませんが、3機目はそもそも最初から動作しませんでした。3機目はASATのターゲットだったという噂もありましたが、単に新型打ち上げ機のダミーペイロードだった可能性もあります。
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バーMは地図製作用の衛星ですが、これは要するにICBMの標的位置を正確に測定する衛星で、しかし撮像データは様々に利用可能です。カメラは2基互いに角度を付けて光学ベンチに載っています。バーMはこの春にも1機打ち上げられており、残り3機も打ち上げられる予定です。
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バーMは何故か姿勢制御用のスラスターを12基も持っています。モーメンタムホィールのアンローディングには多すぎる数で、これはホィールを持たない可能性があります。バーMはプログレス社の初めての非与圧衛星で、レスールス-P二号機と呼ばれる設計の流用でしょう。
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もしかするとプログレスには非与圧でモーメンタムホィールを使うノウハウを当時持たなかったのかも知れません。となると推進剤が枯渇するとおしまいです。設計寿命5年ですから最初の2機は既に使えなくなっている可能性があります。つまり現状使えるのは1機だけです。
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カノープス-Vは英SSTLからの技術導入によって開発された地球観測衛星で、最大解像度2.1mの様々なセンサのほか、解像度25mの森林火災検出用熱赤外センサを持っていて、NASAのFIRMSサイトを見ている方はご存じの通りこれは戦場の戦火観察も可能で、夜間視力として貴重でしょう。
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レーダー衛星のほうは、コンドル-Eシリーズの2機がどうも打ち上げ後2年も経たずに死んだらしく、正式にはもう1機も無いことになってます。ただ、この春打ち上げられたkosmos2553がレーダー偵察衛星ではないかと推測されています。
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ロシアの偵察衛星で特徴的なのは、地表画像識別で自位置推定をしていることでしょう。輪郭強調と二値化で圧縮した特徴データと2次元IIRフィルタで一致度を得ます。姿勢推定も高精度に出来る訳です。これで撮像時姿勢を最適化します。
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レスールスP衛星のセンサは6um平方サイズの画素128×1024個のパンクロマチックCCDを焦点面に2列3個づつ並べて、幅3000ピクセルの合成画像を得るようになっていました。他の衛星も同様のセンサ構成だと思われます。つまり画像掃引幅はかなり狭くなります。
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ロシアの偵察衛星の陣容がこんな風になった原因としては、宇宙用半導体の供給問題や背伸びのし過ぎが挙げられると思いますが、ロシアの衛星システムの転換期ど真ん中で戦争をおっぱじめたのが全ての根本原因でしょう。
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ロシアの衛星は気密容器を廃する方向に転換しましたが、軽くなる代わりに熱条件が悪化し、高温や低温の悪条件に耐える耐環境半導体が重要になりました。しかしロシアの半導体産業は耐環境半導体をよく生産しているとは言い難く、また熱構造解析ツールの整備も不十分でした。
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それと、運用側の考え方の問題もあるでしょう。衛星偵察の目標選定はGRUで行われ、結果もGRUに送られる筈です。作戦前に撮影が行われ、衛星情報をもとに作戦が決定される筈ですが、ソ連時代の写真回収偵察衛星の軌道寿命は2週間、つまりターンアラウンドは2週間以上でした。
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これは以降短縮され、2014年のマレーシア17便撃墜では4日後に衛星画像を出しており、反応は明らかに速くなっています。しかし担当組織であるGRU宇宙偵察局と情報を必要としている前線との距離は明らかです。アメリカのマルチドメイン化された衛星情報利用とは大きな差があります。
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ロシア軍の頼りとするメインコンステレーションはカノープス-Vということになりそうですが、カノープス-Vは監督省庁が違うため目標選定から撮像結果取得まで更に時間がかかるでしょう。
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地上体制が対応していなければ衛星情報の迅速で効果的な利用は実現できません。マルチドメイン協調下では最新のSARイメージは意味のあるものですが、作戦が頭上の参謀本部から降ってくるだけなら優先度の高いのは明らかに高解像度の光学偵察衛星で解像度の劣るSARは不要です。
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あとロシアの偵察衛星で忘れてはならないのはELINT衛星です。日本では偵察衛星に入れていなかったりしますが、重要な衛星です。ロシアは現在5機のロトスS1衛星と1機のピオンNKSを運用しています。これらはいずれも2014年以降の打ち上げで、ピオンNKSは海洋レーダも搭載しています。
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旧ソ連ではELINT衛星と海洋レーダー衛星はウクライナで開発していたので、ロシアがノウハウを自前で獲得するまで時間がかかりました。ロシアのSAR衛星の弱さの理由の一つでしょう。これら衛星は無線とレーダ傍受に現在フルに利用されているでしょう。
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訂正:レスールスP衛星のセンサの合成画像幅は6000ピクセルになる筈です。下は一世代前のレスールス-DK1のCCDセンサアレイです。 pic.twitter.com/lIBq5pjDf1
— mizuki_tohru (@mizuki_tohru) August 1, 2022
やはりロシアの偵察衛星は機能していないように思える。ロシアの既存の軍事衛星の更新がちょうど2022年から始まる予定だったので、寿命を迎える衛星の更新が止まっている可能性が高い。 https://t.co/9O4rZiapaE
— Seikoh Fukuma (@doku_f) July 25, 2022
参考記事。これによれば平時は偵察衛星のリソースが森林火災やパイプラインの監視などに充てられるそうだが、確かに今年はロシアの森林火災とパイプラインの状況は悲惨な事になっている。https://t.co/6eQOvemqOJ
— Seikoh Fukuma (@doku_f) July 25, 2022
一応ロシアはペルソナ光学偵察衛星の次世代機としてRazdan(ラズダン)と言う新型偵察衛星を打ち上げる予定で、計画では既に2機打ち上がってる筈だったが、影も形も無いな。
— Seikoh Fukuma (@doku_f) July 25, 2022
ロシアの新型偵察衛星Razanに関する考察。さすがNASAの掲示板だけあって詳しい。https://t.co/mkQxSE8ouL
— Seikoh Fukuma (@doku_f) July 25, 2022
関連記事。ウクライナ戦争においてロシアの衛星はほぼ盲目です。https://t.co/F9QhfFZMsh
— Seikoh Fukuma (@doku_f) July 25, 2022
ロシア軍、兵隊は現地でむりやり調達したり貧乏人をかき集めたりして調達できるし、兵器は型落ちの旧型であればいくらでも保管兵器がある。
しかし現地にある補給物資だけは、どうする事もできない。輸送ルートを破壊されたり集積地を吹き飛ばされたりすると対処しようがない。— MASA (@masa_0083) July 24, 2022
キエフ攻防戦の時も兵力はあったし兵器も十分あったけど、補給を叩かれてロシア軍は作戦が続けられなくなった。
精密誘導兵器で弾薬庫を叩かれた事が、いまのロシア軍にはボディブローのように効いてきているのではないか。— MASA (@masa_0083) July 24, 2022
兵隊と戦車と大砲をいくら前線にならべた所で、食べ物と燃料と砲弾がない軍隊には戦闘力がない。
— MASA (@masa_0083) July 24, 2022
一応ロシア軍にもレーザー誘導砲弾とか精密誘導兵器があるにはあるのだが、ウクライナの兵站拠点が吹き飛ばされていない所を見ると、ウクライナ軍の前線の後ろがどうなっているか、ロシア軍にはわからなくて攻撃できないのではないか。
— MASA (@masa_0083) July 24, 2022
いまロシア軍が攻撃しているのは、前線のウクライナ軍部隊、都市、港湾、畑と、ロシア軍前線部隊から目視できる目標と地図を見れば位置がわかる目標ばかり。
— MASA (@masa_0083) July 24, 2022
ロシアの宇宙開発の凋落が話題になってるが、国策で維持する筈の偵察衛星や位置情報衛星(GLONASS)の低迷ぶりから見て、今後はロシアにとって絶対必需品である早期警戒衛星や気象衛星・通信衛星すら危うい。
最終的には北朝鮮のように全リソースは弾道ミサイル開発に振り向けられる事になりそう。— Seikoh Fukuma (@doku_f) July 27, 2022
実は日本はあまりロシアの事を笑えない。日本にとって命綱の筈の気象衛星が予算削減で予備機無しで運用していたせいで、2003年に衛星が故障すると米国の気象衛星に頼る事態になった事がある。今でも気象庁の予算は厳しくてWebに広告を載せている程だ。
— Seikoh Fukuma (@doku_f) July 27, 2022