世界中で張り巡らされている海底ケーブルについてのよもやま話

いつだったかル・モンド・ディプロマティークで『海底ケーブルを巡る国家間のせめぎ合い』と題する記事を全文で読んだことがありました。
地政学上の観点から論じたコラムで、新時代の見えない冷戦のような話に「おぉ〜」と唸らされたものです。

上の図は『海底ケーブルを巡る国家間のせめぎ合い』に掲載されているものですが、“Submarine Cable”でググると最新の地図が見れるようになっている英語のウェブサイトが始めの方に出てきます。ネットさえあればこういうのが見られるなんて、ホンマいい時代になったものです。
Submarine Cable Map [https://www.submarinecablemap.com]
Submarine Cable Map 2022 [https://submarine-cable-map-2022.telegeography.com]

そして今朝は日経クロステックから海底ケーブルについての記事がアップされてました。こちらは日本企業=NECが世界3強の一角として関わってますよーという内容。食料やエネルギーなどと同じくらい“世界中の人々の生活に欠かせないモノ”に日本もガッツリ関わっているのは誇らしいですね。GAFAMのように投資する側に立てれたら尚良いのですが、まぁこればかりは詮無いというか・・・

 

海底ケーブルはこうやってつくられる、世界3強の一角占めるNEC子会社工場に潜入
【日経クロステック:堀越功 2022年10月19日】

 国際通信の99%を担う海底ケーブルが、空前の建設ラッシュを迎えている。近年、米Google(グーグル)や米Meta(Meta Platforms、旧Facebook)など巨大IT企業(ビッグテック)が海底ケーブル投資の主役となって、太平洋や大西洋を横断する大型海底ケーブル建設プロジェクトを相次いで進めているからだ。今や海底ケーブルは、ビッグテックのデジタル覇権を支える地政学的な武器と化している。

 そんな海底ケーブルの製造や敷設について、実は日本企業が世界3強の一角を占めていることはあまり知られていない。フランスAlcatel Submarine Networks(アルカテル・サブマリン・ネットワークス)、米SubCom(サブコム)と並んで世界シェアトップ3に名を連ねるのが日本のNECだ。NECの子会社であるOCC(横浜市)が北九州市に持つ海底システム事業所こそ、海底ケーブルの世界有数の生産拠点である。同社はこれまでに約39万キロメートル(km)の海底ケーブルを生産してきたという。実に、地球から月までの距離に相当する長さだ。

 今回、記者はOCCの海底システム事業所を見学できたので、写真を中心に、知られざる海底ケーブルの製造工程を紹介しよう(図1)。

〔図1 NECの子会社であるOCCの海底システム事業所(北九州市)
世界有数の海底ケーブルの生産拠点だ(写真:日経クロステック)〕

約90キロメートルの長さを一気に製造

 現在の海底ケーブルは、石英ガラスでできた髪の毛ほどの太さの光ファイバーを数十本束ねてつくられる。世界最高クラスの海底ケーブルは、1本のケーブルに24組48本の光ファイバーを束ねたタイプだ。実に0.5ペタ(P)ビット/秒という桁違いのデータを伝送できる。データ容量としては1秒間でDVD約1万3300枚を伝送できる能力に相当する。

 海底ケーブルは浅瀬用の「外装ケーブル」と深海用の「無外装ケーブル」の主に2タイプがある(図2)。実は深海用の海底ケーブルの方が、細くてシンプルな構造だ。光ファイバーを束ね、その周りを鋼ワイヤで補強し、銅の皮膜で一体化。さらにポリエチレン(PE)の外装をコーティングすることで深海用の無外装ケーブルが完成する(図3)。

〔図2 海底ケーブルは主に2種類
白い外観のケーブルが深海用の「無外装ケーブル」、黒い外装を施したケーブルが浅瀬用の「外装ケーブル」だ(写真:日経クロステック)〕

〔図3 ケーブルの製造工程
銅の皮膜工程、ポリエチレンによるコーティングの工程(LW工程)、さらに場合によっては外装工程というステップを踏む(写真:日経クロステック)〕

 深海用の海底ケーブルは、水深8000メートル(m)まで対応する。水圧はかかるものの、実は深海の方が潮流の影響は少なく、ポリエチレンの外装程度でも十分耐えられるという。ちなみに海底ケーブルの設計寿命は25年。一度、海底ケーブルを引くと、四半世紀にわたって使い続けられる品質が求められる。

 浅瀬用の海底ケーブルは、深海用の海底ケーブルの周りを外装用の鋼ワイヤでさらに補強し、外装用の皮膜処理を施すことで完成する。浅瀬は漁船の網や船舶の錨(いかり)によって、ケーブルが傷つくことがある。そのため頑丈な構造が求められるという。

 それでは実際の海底ケーブル製造工程を見ていこう。まずは浅瀬用と深海用で共通となる銅皮膜までの工程だ(図4)。

〔図4 銅皮膜までの作業を一気に進め、直径3メートルの巨大なドラムに巻きつけていく
現在この工程でつくられている海底ケーブルは、世界最高クラスの24組48本の光ファイバーを束ねたタイプという(写真:日経クロステック)〕

 銅皮膜までの工程では、光ファイバーを3分割された鉄片で固定し、鋼ワイヤで補強、そして銅の皮膜で一体化という作業を一気に進める(図5)。直径3メートルの巨大なボビンのようなドラムに巻いていく。90キロメートルほどの長さのケーブルを一気につくるため、ドラムに巻く作業は、一度始まると数日間は止まることなく続けられるという。この工程で完成した90キロメートルのケーブルを巻いたドラムは、重さが実に70トンほどになる。

〔図5 銅の皮膜によって光ファイバーの束と鋼ワイヤを一体化する
(写真:日経クロステック)〕

 ちなみに光ファイバーを3分割された鉄片で固定するという構造は、OCCによる特許であり、他のライバルメーカーは採用していないという。3分割鉄片で光ファイバーを固定することで強固な構造となるほか、高性能な大口径の光ファイバーを採用しやすいという利点が生まれるという。

 続いては、銅皮膜の周りにポリエチレンで外装する工程だ(図6)。前の工程で巻いた巨大なドラムをクレーンで移動し、片道100メートルほどのラインを使って、ポリエチレンによる外装を施していく(図7)。

〔図6 ポリエチレンによる外装工程
片道約100メートルのラインを使って作業する(写真:日経クロステック)〕

〔図7 ポリエチレンによって外装したケーブル
深海用海底ケーブルはこれで完成だ(写真:日経クロステック)〕

 この工程でできあがったケーブルは、既にドラムに巻けるサイズではない。そのため「ケーブルパン」と呼ばれる直径6メートル、高さ2メートルほどの容器に手作業で収容していく(図8)。こちらも昼夜問わず作業が続くため、作業員は交代で担当する。「自動化できないものか」と記者は思ったが、ケーブルが曲がる向きに沿ってきれいに巻いていくような作業が求められ、現時点では自動化が難しいという。

〔図8 ケーブルパンと呼ばれる容器に完成したケーブルを収容していく
自動化は難しく、現在は手作業で進められている(写真:日経クロステック)〕

 深海用海底ケーブルはこれで完成となる。この段階でケーブルを収めたケーブルパンごとプールに沈めて、通信できるかどうか最初のテストを実施する(図9)。こちらのプールは水温を変えられるのが特徴という。世界の海水温度の範囲である3度から30度の間で温度を変えて試験できる。

〔図9 ケーブルパンをプールに沈めて通信試験を実施
(写真:日経クロステック)〕

 浅瀬用海底ケーブルは、さらに外装用の製造工程が加わる(図10)。外装用の工程が終わった後も再度、タンクに水を入れて絶縁試験を実施する。海底ケーブルは簡単に修理はできない。専用のケーブル敷設船は1日当たり数百万円のコストがかかるためだ。品質を高めるための繰り返しのテストが欠かせないという。

〔図10 浅瀬用の海底ケーブルの外装工程
(写真:日経クロステック)〕

システム全体でテストし巨大なタンクで保管、船へ積み込み

 これで深海用と浅瀬用のケーブルが完成したことになる。だが海底ケーブルは「オーダーメードの専用システム」(OCC担当者)であり、プロジェクトに応じた構成とした上で、最終テストを実施する。海底ケーブルのプロジェクトごとに、長さやルートはもちろん海底の地形も異なる。さらに海底ケーブルは、60キロ〜100キロメートルごとに中継器を挿入しなければならない。光信号は光ファイバーの中を伝わるにつれて減衰してしまうため、中継器で増幅する必要があるからだ。

 このように海底ケーブルのプロジェクトに合わせ、中継器を含めたオーダーメードの構成で最終試験する。試験後は「SAT(System Assembly Tank)」と呼ばれる巨大な貯蔵庫に一時、保管する。東京ドーム4個分の広大な敷地を持つOCCの海底システム事業所だが、ものづくりをしているエリアは約4割。残りはSATなど完成した海底ケーブルの一時保管エリアだという。

 こうして完成したオーダーメードの海底ケーブルは、ケーブル敷設船と呼ばれる専用の船に積み替えられ、海上での敷設に向かうことになる。旺盛な海底ケーブル敷設の需要に答えるため、NECは2022年10月、英Global Marine Systems(グローバル・マリン・システムズ)から、ケーブル敷設船「ノーマンドクリッパー」を約4年間(2022年9月~2026年5月)、チャーターする契約を結んだ(図11)。

〔図11 NECが長期チャーターしたケーブル敷設船「ノーマンドクリッパー」
以前はプロジェクトごとに船をチャーターしていたが、海底ケーブル敷設プロジェクトの受注が順調で、長期チャーターしたという(写真:日経クロステック)〕

 記者がOCCの海底システム事業所を見学した際、ちょうどこのノーマンドクリッパーへ海底ケーブルを積み込む様子を見ることができた。こちらも併せて紹介しよう。

 OCCの海底システム事業所のすぐ横にノーマンドクリッパーが停泊しており、レールを通じて工場から直接、ケーブルを船に積み込む(図12)。船の内部には海底ケーブルを積み込むための巨大なタンクが2つある。合計で約7000キロメートルもの海底ケーブルを積載できるという(図13)。

〔図12 OCCの工場からレールを使って海底ケーブルを直接船に送る
(写真:日経クロステック)〕

〔図13 ノーマンドクリッパー船内のタンクに海底ケーブルを積み込む
(写真:日経クロステック)〕

 OCCの工場でつくられた海底ケーブルは、こうして船に積み込まれ、今後数カ月にわたって敷設作業が進むことになる。米調査会社のTeleGeography(テレジオグラフィー)によると、NECが最近受注した海底ケーブルのプロジェクトは、グーグルやメタによる米国と東南アジアを結ぶ「Echo」や、NTTや三井物産などによる米国と日本を結ぶ「JUNO」など、今後の世界の通信を支えるであろう大型プロジェクトがいくつも含まれる。

 目の前で積み込まれている海底ケーブルが、今後20年近くにわたって世界の通信を支える大動脈になることを考えると、なぜか記者の胸に熱い思いがこみ上げてくる。世界の通信の背後には、日本のものづくりの力や、インフラを敷設するという関係者の支えがあることを覚えておきたい。