メモ代わり
軍事学についての真当な日本語解説はなかなかお目にかからないので
(私のアンテナが鈍感なだけかもしれませんが)
それに日本国憲法下でも“(正当防衛にほぼ等しい)防御”は合憲の範囲内ですし
ロシア軍が実施する可能性が高い防御方式を、ロマンチュク大将の2023年4月の論文に基づき記す。
マニューバ防御(Маневренная оборона)の大隊までの汎用化と旅団以上での実用化である。露軍事学において防御は2つに大別されてきた。ポジショナル防御とマニューバ防御である。 pic.twitter.com/xv0SyunR7V
— 戦史の探求 (@noitarepootra) May 28, 2023
ポジショナル防御は地点保持を優先目標とし、米陸軍の陣地防御とほぼ同一コンセプトとなる。一方でマニューバ防御は自軍戦力の維持をしながら敵攻撃戦力に損耗を出させることを優先とし、即ち地点は拘らず放棄後退を前提とした計画となる。
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米陸軍の機動防御(mobile defense)は逆襲の打撃を行うマニューバに焦点が置かれているのに対し、マニューバ防御は戦術的逆襲を可能なら幾つか行いながら実施するが、必須ではなくあくまで防御前線の移動に焦点が置かれている。むしろ遅滞の様式に外見は似る。 pic.twitter.com/buUtpBC8iu
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例えばマニューバ防御は作戦区分として「セキュリティ区域」と呼ばれる範囲を担い、最終的にポジショナル防御を行い敵を停止させる主防御域へと引き渡す。作戦レベルの逆襲を行うかはこの主防御域の部隊と敵がどこまで損耗したか次第。縦深に陣地を用意するが、戦力を縦深配置はしないことが多い。 pic.twitter.com/YKX2hv6gfx
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そのため威力偵察程度なら跳ね返す力を持ち、外見上ポジショナル防御に見える時期がある。しかし敵攻勢が激しいものだと判断した時点で、砲兵隊と空軍と協力し敵突進部隊に出血を強いりながら各部隊は逐次準備済みの後方陣地へ後退⇒戦闘を繰り返す。
(米軍の遅滞も添付 出典MCRP3-10B.1) pic.twitter.com/E1FpCgirsV— 戦史の探求 (@noitarepootra) May 28, 2023
露軍は2022年まで各教本で中隊~大隊でやり方を明示できてはいたが、旅団以上そして作戦レベルで実施する具体化をできず距離も兵力も不明だった。
だが将校向けの研究誌「軍事考察」2023年4月号で、ウクライナ戦争の経験に基づき、旅団以上での手法についての具体的な提唱が地位ある人物から為された pic.twitter.com/MY5eWuniVv
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続きはこちらにスレッド分離しました。
ロマンチュク、シギン両名は戦術‐作戦理論の現代化に関し第1人者となる地位にいるので、今後も論文には注意した方が良いと思います。https://t.co/NognKxf2mm— 戦史の探求 (@noitarepootra) May 28, 2023
ロマンチュク大将は、現代の戦場はWW2よりも
・長射程
・高精度
・分散化
・戦場の透明化
・移動力の向上
が顕現し『分散的防御』の時代となったと述べる。
ポジショナル防御で完全に跳ね返すのを理想としながらも現実として「必要な時に必要な量の戦力を与えられない」という政治的条件を前提にし、 https://t.co/kVlYXIMmfM pic.twitter.com/OLa0686jtt— 戦史の探求 (@noitarepootra) May 28, 2023
露軍が現実的に許された兵力で行える最も効率的な防御方式として、マニューバ防御の具体化を提唱した。
それは1個旅団が最前線でマニューバ防御を最大50km縦深まで実施する計画だ。敵は前進し領域獲得と引き換えに戦力を損耗。その先に2個旅団以上がポジショナル防御を展開し同幅の戦線を受け渡される pic.twitter.com/NeEbQOKhOK— 戦史の探求 (@noitarepootra) May 28, 2023
セキュリティ域のかつてない巨大化、主防御(停止位置)での戦力の具体化、рок=偵察‐火力コンプレックスの改善と分散配置、予備陣地の縦深に関しこの論文は初めて明示した。
論文後半には、「新編成」の空中機動部隊による急遽増援型防御の利便性と可能性が述べられている。穴埋めや敵後背投入など。 pic.twitter.com/YViUsC6Tzr
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従来のポジショナル防御での自動車化歩兵旅団は幅20㎞縦深15kmを基本とし、3個歩兵大隊と1個機械化大隊が三角形または4角形配置を取っていた。
だが作戦的マニューバ防御において、大隊4個が前線に横1列でならび、恐らく戦車大隊1個が旅団の縦深位置に置かれ、各準備済み後退ラインは8~12kmごとに配置 pic.twitter.com/GTxNGtoqc6
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主防御エリアが従来の2個旅団ポジショナル防御とすると、幅40㎞なので、前方のマニューバ防御を実施する1個旅団は幅40kmx縦深24~50kmを担当することになる。
この範囲内で自由に各部隊は動き回り、後退も前進も上級司令官の許可のもとで複数のヒット&アウェイのような戦闘を展開する。— 戦史の探求 (@noitarepootra) May 28, 2023
しかしマニューバ防御は大きな欠点が3つある。
政治的に後退が許されない地域では不可なこと、後退できるが故により脆弱に陣地を放棄する傾向が増大すること、後退の許可をいつ出すかという上級司令官の手腕に著しくクオリティが依存することだ。
故にソ連はWW2の後、この方式を削除した事実がある。 https://t.co/fKSS9oPPwf— 戦史の探求 (@noitarepootra) May 28, 2023
ロマンチュク大将は結論で、理論の実証と改良のために「各軍事衝突中に実験をすること」と明言し、冷徹な軍事理論家の顔を隠していない。
膨大な両軍の死傷者を出しながら、数値や配置を理論改良の材料にするつもりだろう。逆に言えば、戦線大半でマニューバ防御化できるほどの信頼性はまだない。 pic.twitter.com/SQelTTcIbA— 戦史の探求 (@noitarepootra) May 28, 2023
露は恐らく政治的にザポリージャ原発、DPR&LPR2014領域を放棄できない。衛星画像で解析された陣地構築状況https://t.co/KmHzIeup3dに基づくと、次の領域が『ロマンチュクの実験場』の候補地だろう。
ウクライナ軍は縦深80kmをごく短期間で1か所貫くか、多方面で同時に突破すれば、実験を失敗させられる pic.twitter.com/2mIJFOiqeg— 戦史の探求 (@noitarepootra) May 28, 2023